013  不協和音④Ⅳ

「そこを何とか! ね⁉ お願い!」

「そうだな……」

「分かった。お願いを聞いてくれたら私からいいお礼をしてあげよう」

 部屋を出て、廊下を歩きながら明日奏あすかは悩んでいる優翔ゆうとに言った。大広間おおひろまに入り、ご飯抜きのおかずだけを優翔から受け取り、箸を手にする。

「これ食ったらすぐに歯をみがいて顔を洗い外に出ろ! 後二分だ! いいな!」

 すぐに戸締りを確認して、電気、ガス、水道をこまめにチェックする。どこにも異常がないことを確認終えると、大広間を出た。

 そして、玄関に用意しておいた自分のバックを背中に背負う。

 靴箱から動きやすいスニーカーを取り出して、右足から履き始める。

 すると、隣で出かけようとしている慎一が靴を取り出した。

 長めの薄いズボンに薄めの青色のジャケットの内側には白の服を着ていた。手提げバックの中には大学に必要なパソコンや教科書でも入っているのだろう。

 そう言えば、慎一しんいちも車の免許を持っていたはずだ。それも今まで減点なしのドライバーだ。もしかすると、手伝ってくれるのかもしれない。

「慎さん。良ければ俺と明日奏を高校まで送ってくれませんか? あいつ、朝っぱらから今までずっとピアノを弾いていたんですよ」

「ああ、だからか。いつもは見ない時間帯なのにここにいるのはそうだな。俺の車は今、車検に出しているからな……」

「それ、初耳ですよ。いつ戻ってくるんですか?」

 申し訳なさそうな顔で、慎一が考える。

 優翔はうかつだった。

 もしかすると、自分が楽できるかもと思ったのがいけなかったのだ。一瞬の緩みが、こんな小さなミスに繋がってしまう。

「確か、明日だったような気がする……いや、今日だったかな?」

「自分の大切な車のことぐらい覚えていた方がいいんじゃないんですか?」

「まあ、そんなにイライラするんではない。よし、なら俺が一分以内に用意してやろう。」

「本当ですかぁ? なんだか不安なんですけど……」

「心配するな。丁度、試してみたい道具があったからな」

 ニヤニヤしながら、そのまま靴を履いて外に出て行った。

 一体何をするのだろうか。

 その一言が頭に浮かんだ。

 自転車よりも速い乗り物で三人乗りができそうなものは聞いたことがない。

 もしかして、オートバイク。でも、免許を持っていない。

「タクシーは、ものすごく金がかかるし、無理があるだろうな」

 すると、歯を磨き、顔を洗い終えた明日奏が、やっと姿を現した。

「ねぇ、すぐに出て来いって言っていたのに何をしているの?」

「すぐに分かる。秘密兵器を召還したから……」

 優翔は、その秘密兵器が現れるまでそう時間はかからなかった。

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