010  不協和音④Ⅰ

「頭が痛い……。そう言えば昨日は散々だったな」

 額に手を当てて、頭痛が走るのを押さえながら目覚まし時計によって体は起こされた。いつもの習慣で朝からテレビを点けてワイドショーを見る。

 いつも通りの生活習慣に戻ることが出来たのはいいが、この片頭痛へんずつうは時々起きる。昔、親が県病院であらゆる検査をさせたのだが、結局は何が原因なのか全くわからなかった。薬は朝食の後に飲めば大丈夫である。

 そして、一番散々だったのは昨日の焼肉会である。特にあの取り合いは、肉を制する者、肉奉行であるということだ。ある意味、鍋奉行なべぶぎょうと同じ意味である。皆が皆、自分以外敵だと睨み合いながら焼き上がった肉を次々と取っていった。

 だが、焼肉というのは男がたくさん食べるイメージだが、ここはそうではない。女が強くて、女が最強なのだ。同時に肉を掴めば、勢いよく肉を取られていく、一瞬の緩みでも見せれば、自分の育てておいた肉でさえいつの間にか無くなっている。

 今日から入居してきた明日奏もお構いなしに、肉を食べながらご飯を食べる。見た目だけは可愛いと言ってもいいこの荘の女子たちは、中身が残念なことを誰も知らないのかもしれない。いや、この状況に出くわさなければ、信じがたい話である。

 焼肉と同時進行でご飯を七合ほど炊いていた炊飯器すいはんきの中身は、いつの間にか空になっていた。焼肉を食べ終えた後、ほとんどがその場で横になっていた。胃に異常な摂取量を取ったせいか、腹が浮き上がってきている。

 動けるのは、優翔ゆうと慎一しんいちの二人だけだった。汚れた食器を重ねて、流し台に持って行き、水につける。こってりした膏がべったりとついていた。

 洗剤をスポンジに付けて、皿洗いを始めた。流し台の底が泡だらけで見えなくなるほどに、磨きに磨きをかけており、全てが洗い終えるのに約一時間もかかった。

 その後は、見たいテレビを一時間見ていた。

 皆が、復活した後は、それぞれ自分の部屋に戻り、勉強やゲーム、寝ているかのどれかだ。優翔は、春休み明けに新入生実力テストの対策の勉強をしていた。

 数学、国語、英語の三教科である。一学年共通テストであり、全ての学科を統一して初の番数が張り出される。いつまで勉強していて、いつから寝ていたのかも記憶が曖昧あいまいで全く覚えていない。

 欠伸をしながら、朝食を食べに台所のある大広間に向かうと、後ろから足音がした。

 後ろを振り返ると、鈴が勢いよく走ってきた。

 いつもの私服姿ではなく、灰色のブレイザーに紺色のスカートを着こなしていた。白いソックスを履いて、朝っぱらから笑顔でこんなに動く力が一体どこにあるのだろうか。それからぞろぞろとある程度の準備を終えた住人たちが自分の部屋から顔を出して、廊下に出てくる。朝の朝食を作るのは、大家である姫花ひめかだ。

 そうしているうちに、大広間からいい匂いが廊下まで充満していた。

「ほう、今日はバランスのいい朝食が食べられそうだ」

 慎一が腕を組みながら、未だ、寝間着姿で優翔の隣に並んでいた。

 その隣には、颯介そうすけがいた。

「颯さん、慎さん、おはようございます」

 大学生の二人は高校生である優翔やりん明日奏あすかよりも朝はそれほど忙しくない。

「ああ、なんで俺らがオメーらに合わせて俺が早起きしないといけないんだよ!」

 朝早く起こされて、イライラしながら颯介は、舌打ちして、溜息をついた。

「まあそんな事を言うな、颯介。俺達も四年前はいつもこの時間帯だったぞ」

「それで、大学は今日からなんですよね?」

 扉を開いて大広間に入ると、朝食がちゃぶ台に並べてあった。

「ああ。でも、みやびだけは三日後からなんだよな。羨ましいよ」

 朝食は朝から活動する人間の人数分だけ並べており、それ以外はラップをしてお盆に載せられていた。

「そう言えば、新しく入ってきた明日奏の姿が当たらないな」

「鈴。お主、あの少女は起こしてこなかったのか? もうそろそろ起きないと、遅刻するぞぉ」

 慎一は、もう朝食を食べ始めている鈴に訊いた。

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