005 不協和音②Ⅱ
白と黒の部分はそれぞれ半音違う。高い音から低い音へと音が繋がっていくのが伝わる。
ピアノを弾くのが怖い。
これはあの時と同じだ。そう、幼い頃の自分と何も変わらない。
約九年前————
あるコンクールの本選に出場した優翔は、当時ピアノを始めて二年経っていた。
ピアノの先生からその才能を見抜かれ、嫌々で出てみたコンクールの重さは小学生にとっては物凄い重圧だった。
「優翔、男ならびしっとしろ! いつも通り楽しく弾いてくればいい」
「う、うん……」
「お前の演奏は人の心を動かす。いや、聴いていて楽しいんだ。恐れるな、前を向け!」
励ましてくれる父親の言葉は、嘘は言っていなかった。
母親も隣に立っていて見守っていた。
「よし、そろそろお前の時間だろ? 行ってこい」
「うん。僕、楽しく弾いてくるよ」
優翔は笑顔でそう答えた。
自分以外の同級生は実績のある実力者ばかり。その中でも一人、
いくつものコンクールで優勝を何度も経験している天才少女だ。
同学年でレベルの差が格段と違う。
優翔のプログラムは、彼女の後になっている。最悪のくじで、勝ち目などない。
そして、プログラムはどんどん近づき、彼女の出番がやってくる。ステージに立ち、スポットライトに当てられる彼女は、眩しく見えた。椅子の調整をし、呼吸を整えながら
弾き始めると、その小さな手が千手観音のように無数に見えてくる。音の乱れは無く。テンポは一定に保ってある。
聴けば聴くほど、自分の音楽が否定されているようだ。涙がこぼれそうでステージに立ちたくない。雲の上の存在である神様には、絶対に勝てないことを幼い頃に感じた。
彼女のステージが終わると、自分の番になる。あの輝かしい場所に歩いて、立つまでに耳障りがする。分かっている。自分が期待されていないことに、気づいているからだ。挨拶をする時、もう観客からは可哀そうの一言が聞こえてきた。
自分は自分で自分らしい演奏をすればいい。だから、優翔はコンクールの事を忘れて演奏をした。
結果が出たその翌日から優翔はピアノを弾くことを辞めた。もう、十分に音遊びはしたと思った。
それから九年の月日が流れ、再び人前でピアノに触れる。
それを見ていた
「そんなに弾くのが怖いのか? これは遊びだ。人前で引くのは誰でも怖い。指が震えて、間違えたらどうしようとも思う」
「俺は、至って普通ですよ」
「だったら、緊張するな。一つ叩いたら流れるようにメロディーが頭に入ってくるはずさ」
「だって、九年も触れてないんですよ」
「天才は皆そう言う。自覚のない奴は特に……」
額に手を当てて颯介が苦笑いする。
「とにかくできるところまで弾いてみろよ。後ろが控えているんだから……」
そう言われて、優翔は、指の間隔できらきら
主題は今より修飾されたきらきら星を弾く。それから第1変奏に入り、十六分音符と
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