14th

 「ヒジキ君、ちょっといい?」

 あと、一週間なのに先生から呼び出された。

 今日は、サユリは体調不良で休みだという。この前の一件から、あまり口を聞いていなかった。だから、サユリのことがもうわからなくなってしまった。あの日から自分は損失感に襲われていた。

 先生の後を付いて行くと個室の前で止まり、入るように促された。

 入るなり先生に椅子に座らされ、扉の鍵を閉めた。

 「ヒジキ君さ…」

 そう言うなり。机にもたれながら話し出した。

 一体なんの話なんだろうか。サユリか。それとも、自分について。それとも、舞台について。それとも…と、可能性を次々と列挙し始めていた。

 「未来から来たんでしょ?」

 その言葉が自分の頭の中を抉った。

 それは、本心で言っているのか。それとも、はったりか。

 確かにそうだが、それは自分にしか知りえないことであり、他人は誰も知らないことだった。

 このときから、過去のことがぼんやりとしか思い出せなくなっていた。

 「私ね、サユリから話聞いたんだ。何か、予言めいたことずっと言ってたんだっけ。」

 まさかと思った。あの時、サユリは舞台のことを聞きに行ったのではなく、自分の最近のことについて相談しに行ったのか。

 「あと、私の口からで申し訳ないが、サユリは君の言動に気が参ったらしい。

この前、親がサユリの部屋を入ったとき、サユリが首に包丁を当ててたらし   い。慌てて両親が止めに入ったけど、サユリはずっと『ヒジキ君…ヒジキ君が…』と永遠に繰り返していたらしい。

 そのまま、病院に行き、医者に『精神的に不安定の状態だから、入院をしなくてならない。きっと、そのヒジキ君がずっと心を抑圧していたのではないか。』と告げられたそうだ。そのまま入院をし、今も精神は不安定だそうだ。」

 初耳だった。

 そんなこと、親の口から聞いてなかった。親は、サユリの親と仲がよく定期的に食事に行くほどだった。そんな関係でサユリのことを聞いていない訳がない。もしかすると、サユリの親に酷い事を言われ、それを隠しているのだろうか。

 そう思うと、背筋がゾッとした。

 「それにね。元の世界のサユリから『ヒジキ君が消えた』って聞いてさ。」

 頭の中が真っ白になった。地平線が見えなかった。

 その中に独り黒一点と黒い点が自分の頭の中に浮かんでいた。

 「先生。先生は何者なんですか?」 

 その黒い点はただ一つの疑問だった。

 「私?私はね、並行世界の自分と繋がれる能力?を持って生まれた人間、かな。」

 もう、思考が完全に停止してしまい、もう何が何だか分からなくなった。

 「ヒジキ君。元の世界のサユリはさ、君に追いつこうと頑張ってたって話だよ。確かに、サユリは追い込まれていたそうだし、何より私自身が追い詰めたんだと思う。

 サユリはそんな弱い娘じゃない。自分の殻を必死に割ろうとしてたんじゃないか。話を聞けば、元の世界では上手く行っていたそうじゃないか。

 サユリは強い娘だった。だけど、君が過去に戻ってきて時間軸を狂わし、その時間軸の住人に影響を及ぼしてしまった。」

 もう、頭の天と地が逆転した。もう何が何だかわからない。

 わからなすぎて、涙が零れそうになった。

 「泣いても無駄だよ。もう、どうすることもできないよ。過去を変えても未来は変えられない。現在(いま)変えなきゃ意味がない。君は自分の感情に素直過ぎた、はっきりと言って君にはもう、居場所はない。君はこれだけ、時間軸を交差させてしまい乱れさせてしまった。そして、人の心も。」

 そう、冷たく静かに告げられた。最後の一言は深く心に刺さった。

 まるで、獣のような目を見ていた。

 「最後に質問ね。」

 そう一息置き。

 「君は、サユリの存在をわかってあげれたか?」

 その言葉は自分という存在を酷く抉った。


 それから、自分は先生に抱えられスクールを後にした。

 別れ際、「元の世界のサユリから『ヒジキ君としゃべりたい』だそうだ。すまん、止められなくて。」その言葉を聞いた瞬間涙がすぅっと流れた。

 そうして家へ帰った。親がとんでもない顔をして自分を見ていた。

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