11th
一通りレッスンが終わり一同は先生に集められた。
「今から舞台の選抜を発表したいと思います。」
女の先生なのだが、低くそう告げた。
周りの空気がピンっと張り詰めた。だが、自分は緊張という概念が何処か遠くに行ってしまった。
「まず、脇役から。OOO役、A。OOO役、B。OOO役、C。…」
次々と名前が読み上げられていく。いつもの中心的な人物達の余裕の空気が無かった。そうだった。何か今回は違うと感じたのか、それは今でも分からなかった。
「OOO役、Z。続いて、準主役、U村サユリ。」
周りの沈黙が今のスクール生の感情を表していた。だが、自分は嬉しかった。
サユリがいきなり準主役を勝ち取った。過去の自分だったら何を思っていただろうか。
良かった。その一言に尽きた。サユリの努力が報われた。それだけで自分の名前が呼ばれなくても嬉しかった。そうだった。
次に再びこの沈黙は戻ってくる。何より自分なのだから。
「それでは主役を発表します。今回の舞台の主役は…S川ヒジキに務めて頂きたいと思います。」
自分の存在がその場の空気を一気に極寒に晒した。
一斉に皆がこちらを向いたが、真顔のまま先生を見ていた。
少し先生の目が変わった。
「選抜外の皆さんは気を悪くせず裏方で頑張ってください。では、選抜の皆さんは後で私のところへ来てください。では、解散。」
二回目だろうかサユリを含む選抜メンバーと一緒に先生の元へ向かった。
「では、選抜メンバー、これ台本。毎週金曜に通し稽古するから。今回、歴の浅いS川が主役だから周りのフォローもお忘れなく。」まぁ、多分完璧に仕上げてくるだろうけど。では、頑張って。あと、衣装係の方にも行ってやってくれ。それじゃ、解散。今日は終わり。皆にそう伝えて。明日は台詞から軽く合わせていくから。」
そう言って先生は忙しそうに扉に向かった。開けるとき。少し手強張っていた。
「すごいじゃん!ヒジキ!一緒に頑張ろう!バックアップは任せろ!」
親指を立ててグットサインを作った。
「うん。そうだね。」
周りの目が怖くなくなっていた。
サユリが少し不思議そうな顔をしていた。
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