7th
帰り道の途中、心が走馬灯のように呟いた。
サユリは大丈夫なのだろうか。あんなに無茶して。
まぁ、ずっと一緒にいてわかるのだが、自分が心配しても仕方ないとわかっている。だけど、あんなサユリ、自分では見てられなかった。心が傷つけられてる気がした。勝手に傷ついているだけだが、 あまりに見苦しかった。
途中でいつもなら閉まっている店が開いているのに気がついた。
ガラスから零れる光はまるで、宝石が鉱山から溢れているように感じた。
何かの縁と思いその店の扉に手をかけた。
店内に入ると、そこには思いの外に狭く、ただ店の真ん中に猫を抱えたおじいさんが椅子に座っていた。おじいさんの前に机があったが、コーヒーカップがあるのみで商品などは一切なかった。
「おや?いらっしゃい。」おじいさんはしわがれた声で言った。
「あ、お邪魔します…ここって、お店なんですか?」
不思議と疑問が口から出た。
「ここかい?そうだね…」そう言っておもむろに机の下をまさぐった。そして、机に切符を置いた。
「これは、過去に戻れる切符だよ。」
何故これを出したのか意味が分からなかった。また、このおじいさんのこともわからなくなった。
おじいさんは肘置きから腕を浮かし、自分のことを指さした。
「あんた、何か悩んでいるね?」顔を伏せて息を殺して笑った。
「仲のいい娘がおるんじゃろ?その娘が心配で仕方ないのだろう?」
唐突に本心を突かれて口がポカンっと開いてしまった。
「大丈夫…この切符さえあれば、全てが解決される。どこまで戻りたい?その娘を好きになった時か?それとも、初めて出会ったときか?」
椅子から半ば立ち上がり自分に顔を近づけ囁いた。その、口には少し笑みが含まれており、不気味に感じた。
「まぁ、どうだっていいがな。」そう言って静かに椅子に腰かけた。
椅子は劣化で傷んでいるせいか、ギシッという音を立てた。
ニャー。おじいさんの抱いていた猫が鳴いた。その後、鳴き声の反響と共に過去がフラッシュバックした。
あの日だ。あの日からだ。サユリを一度だけ恋人と見てしまってから、いつもの日常・思考が狂い始めたんだ。もしかしたら、そこに戻れたら、何かが変わるかもしれない。
「それは、君に差し上げるよ。お代はいらない。さぁ、お行き。」
その言葉に乗せられ、自分の身体が勝手に動いているのがわかった。
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