6th

 私はふらふらする足を心配しながら先生の元へ向かった。

 先生は今まで見たことの無い目で私を見ていた。

 「大丈夫?顔色悪いけど。」

 先生が心配そうに見ていた。

 「大丈夫です。先生、ちょっと気になったことがあるんですけど…」

 一通り相談が終わり、先生から質問が来た。

 「本当に無理したら本番までに体崩しちゃうから程々にね。それと、サユリ、ヒジキ君のこと少し意識し過ぎじゃないか?」

 心がギクッとなった。

 私は、自分の感情が表に出やすいから気を付けろと先生に注意されていた。

 「わかっちゃいました?」

 「サユリの演技を見ればすぐにわかるよ。もう何年も見てるからね。」

 天井を見上げながら答えた。

 「『嫉妬』じゃなくて『目標』としてるんだよね?」

 先生が確かめる口調でそう言った。

 確かに、先生の言っていることは私の本心の的を射ていた。ヒジキ君は歴が浅い。だけど、私に持ってないものを一杯持っていた。だから、ちょっとでもいいから盗めるものは盗んでやろうと思い、ヒジキ君をもっと俯瞰的に見れるように距離を置いたのだ。

 空回りしているのだろうか。またいつもみたいに。

 「空回りしているのでしょうか。また、いつもみたいに。」

 心の声を反復するように口が動いた。

 先生に言われると何故か自分のことが不信になってしまう。人のせいにはしたくないがこれだけは何故か治らないのだ。

 「いや、頑張っていると思うよ。無理しないでこのまま行けば、演技は伸びると思う。だけど…」

 途中で先生が口を噤んだ。

 いつもなら言いかけの言葉はスルーするのだが、今回だけはどうしても気になってしまった。

 「何ですか?最後までお願いします。」

 先生は顎に手を当て、何かを躊躇い渋っていた。そして、数分して口を開いた。

 「ヒジキ君のことを乗り越えることが出来なかったら…次には進まないかも。」

 そう言って、先生は私に見た。

 その目は、私じゃなくて他の誰かを心配しているかのようだった。


 帰り道、少しだけヒジキ君のことが気になった。

 よく、ヒジキ君は私のことを心配し過ぎることが度々あった。それが、今回は裏目に出そうだと、先生の目から察することができる、かも知れない。

 急に、最近噂で聞いた都市伝説を思い出した。

 

 この町には、深夜に普段閉まっている店が開いているのだという。いたって普通の話に聞こえるかもしれない。だけど、詳しく聞くと少し奇妙なのである。

 その店は、電車の切符を低価格で売っているというが、その切符は少し特殊だという。それは、改札には普通に通すことが出来るが、来る電車に乗ると過去に戻れるのだというのだ。

 そして、これは本当なのかは怪しいのだが、その店に入ったら周りが見えなくなり、そのまま改札に身体が勝手に行ってしまうらしい。


 急に、頭の中に電流が駆け巡ったような感覚を覚えた。不意に、改札が気になった。不思議とヒジキ君がいると感じた。

 私はふらつく足を気にしながらも鞭を打ち、駅まで走り出した。

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