5th

 「サユリ!もっと演技に感情つけて。台詞の間の時も肝心!他の役を惹き立てて!」「はい!」

 舞台まで一か月を切り、皆追い込みに入って来た。裏方も慌ただしくなり、衣装の寸法を測ったり、ライトやナレーションなどが参加した稽古が続くようになった。

 依然まだサユリの調子があまり優れない。その末、先生にまで心配されていた。サユリ自身は大丈夫だと言っているが、演技を見れば一目瞭然だった。完全に日々の稽古が身体どころか精神にまで来ている。ここまでやっていれば、誰でも身体に来るが、サユリはいつもより一段と疲れている気がする。果たして、当日まで持つのだろうか。心配になってきた。

 「大丈夫か?ゆっくり呼吸して。」

 サユリは緊張のせいか過呼吸に陥っていた。

 サユリにポカリを差し出しても、大丈夫。もうちょっと頑張ってみる。の一点張り。ポカリならず、水も一口として飲んでいなかった。だから、帰るときは足がふらふらしていた。

 最近、気になるのだが何故かサユリに避けられている気がする。

 いや、被害妄想かもしれない。あまり人と関わったことがないため人の感情がわからないのだ。ここに来て自分の人間関係の浅さに後悔の唾を呑んだ。


 サユリは何とか最後までやりきりスクールは終わりを迎えた。

 「良かった。修正点はこの一か月で何とかして、とりあえず今日は帰ろう。」

 サユリが心配で堪らなかった。もう、これ以上見てられない。痛々し過ぎる。

 「私は大丈夫。あ、そうだ、ちょっと先生に聞きたいことあるから。先に帰っといて。」

 「だけどサユリ!その体じゃ…」

 「大丈夫だから!」

 強気に言われ口が閉じてしまった。しばし、沈黙が流れサユリは何かを耐えるように言った。

 「主役が病気でもしたらどうするの?主役は堂々としてなきゃいけないんでしょ?他人のこと心配するより自分のこと心配したほうがいいよ。ヒジキ君だって先生に言われたでしょ…じゃ、私、行くから。」

 そう言って、サユリは自分の鞄を持ち先生の元へ向かった。

 周りが異様な目で自分とサユリの二人を見ていた。

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