EP 1 ヒーロー志願 1 <JUSTICE>


 かわいそうな少女である私の元には、いつかきっと白馬の王子さまが突然目の前に現れて、ここからどこかへ連れ出してくれるのだと、ずっと思っていた。


 わたしはそれを願い続けた。

 毎日願いながら、時間だけが過ぎていった。


 酒を飲んで酔っ払った父が、母を殴るようになった。


 5歳のときだっただろうか、家族3人で晩御飯を食べていると、お母さんとお父さんが、ケンカを始めた。

 わたしはビックリした。2人のケンカを見たのはそれが初めてで、両親は仲がいいと勝手に思っていた。

 なんでケンカしているのかわからなかったから、怖かった。2人で交わされている会話は、まだわたしには理解ができなかった。

 口げんかは徐々に激しくなり、そして、お父さんがお母さんを殴った。

 わたしは、恐怖した。そして、泣いた。お母さんはとても痛そうだった。そして、お母さんも泣いていた。わたしは許せなかった。大事なお母さんを殴った、お父さんを。お父さんは、気まずそうにしていたけど、謝らなかった。わたしはその日から、お父さんを嫌いになった。


 母の腕に痣ができいることがあった。理由を聞くと、またお父さんに殴られたことがわかった。

 わたしが怒ると、お母さんは困った顔をして笑った。

 晩御飯のとき、両親は笑いながら今日の出来事を話し合っていた。

 殴られたその日に笑いあえる母の心境が、とても不思議だった。理解ができなかった。


 お父さんが近くにくると、わたしは警戒し、避けるようになっていた。

 お父さんもだんだんわたしには近寄らなくなった。


 小学校3年生の時。学校から帰ると、母の目の下に、くっきり青タンができていた。

 ここまで酷い痣は初めて見たので、戦慄した。

 わたしは許せなかった。なんで母を殴ったのか、聞かなければいけない。非難しなければいけない。そう決心した。

 父は家にいて、居間でテレビを見ていた。


 許せないけど、同時に、怖かった。

 父が、怖かった。わたしも殴られるんじゃないかと思うと、足がすくんだ。


 でも、勇気を出して、怒った。なんで、殴ったの?もうお母さんを殴るの、やめてよ!と。

 父は意外にも、わたしに頭を下げた。ごめん、と謝罪した。

 その態度を見て、強気に出ることができた。

 わたしはさらに言った。

 謝る相手が違うでしょ?お母さんに謝ってよ、と。

 父は、何も言わなかった。

 しばらく待ったけど、ずっと無言だった。

 この要求は拒否されたのだと、わかった。


 ケンカになるなら、それは理由があるのだろう。

 だけど、暴力で解決するのはいけない。

 ましてや力の強い大人の男が、女性や子供を殴ったら、絶対ダメなんだ。

 わたしはお母さんの方が好きだし、仲がいい。だから、お母さんの味方をする。


 その頃には、早く離婚すればいいのにな、と思っていた。

 むしろなんでしないのか、不思議だった。

 わたしがいるから、お金の心配があるから離婚できないのだろうか。

 わたしもお母さんを苦しめてるのだろうか。

 そんな悩みを持つようになった。


 ある日、思い切って母に聞いた。

 なんで離婚しないの? わたしがいるからできないの? わたしはお母さんと2人の方がいいし、わたしが邪魔なら施設にいくよ、と。

 母は言った。

 ほんとうにしょうがない人だけど、わたしが彼を支えないと、きっと生きていけないから、と。

 理解ができなかった。自分の人生よりも、お父さんが大事なの? いつも殴られてるのに、どうして面倒を見るの?

 そのとき、わたしは小学5年生だった。

 そのころになると、父は恐怖の対象というよりも、軽蔑の対象になっていた。


 父は、朝1人で起きられなかった。いつもお母さんに起こされて、やっと仕事場へ向かっている。

 父が家事をする姿は見たことがなかった。

 父は平日毎日仕事に行ってたけど、母も同じ時間パートタイマーで働いていた。もらえるお給料は違うかもしれないけど、働いてる時間が同じなら、母だけ家事をやっているのは不公平なんじゃないか、と思った。

 仕事から帰ったら、ずっとテレビを見ながらお酒を飲んでいる。

 趣味を楽しんでる姿なんか見たことがない。

 そして、夜遅くになると、すっかり酔いが回って、醜態を晒した。

 好きになれる要素が何もなかった。

 明日お母さんが死んじゃったら、どうやってこの人は生きてくのだろう。


 ある日学校から帰ってきたとき、両親がケンカ中で、大声で罵り合っていた。

 お父さんがお母さんを殴っている場面を見てしまった。

 わたしは思わず走り出していて、うずくまるお母さんの体を覆い、お父さんを睨みつけた。

 そのときお父さんは、とても興奮していて、目が血走っていた。

 そこで大人の男が怖い存在だということを思い出した。

 わたしも殴られた。お父さんに殴られたのは、これが初めてだったと思う。

 唇が切れて、血の味が口内に広がった。

 わたしは泣いた。

 お母さんはいつもこんな思いをしていたんだと、わかった。

 お父さんは、このことは謝らなかった。


 これからわたしも殴られるようになるんだろうなぁ、と思いびくびくするようになった。

 でもわたしが殴られたのはそれっきりだった。


 この家庭には、およそ愛というものがなかった。

 わたしは苦しかった。

 苦しかったけど、当時は原因がわからなかった。

 言うならば、この家は、酸素がたまに足りない。だけど、酸素濃度を図る方法がないので、なんで苦しいのかわからない。

 この例えは少しわかりにくかったかもしれない。

 ただ、わたしは苦しかったから、どこかへ逃げ出したかった。

 家の外の空気は、それほど苦しくはなかった。ちゃんと酸素が足りていた。

 家出しよう、と何度も何度も考えた。

 でもわたしもまた、母がいないと生きていけない人間だった。

 バカにしていた父と、なんら変わらないなぁと、気づいて、自嘲した。

 だから、待っていた。

 ここじゃないどこかへ連れ出してくれる白馬の王子様が、玄関のチャイムを鳴らして訪れる日をずっと待っていた。

 でもわたしの部屋の窓をくぐって強引にさらって行ってくれるシチュエーションの方が素敵かもしれない。

 窓の鍵はいつも開けたたままでいた。今考えると不用心だったな、と思う。


 中学に上がる頃になると、だんだん母に対しても違和感を覚えるようになった。

 わたしは、前と同じ質問を母にした。なんで離婚しないの?と。

 まだ2人の間には、愛があるから、と母は言った。

 もうわたしは理解していた。父は母に対して、なんら愛情を持っていないと。むしろ母を憎んでるようにしか見えなかった。

 感情を抑えられるようになったわたしは、何で父が母を憎むのか、考えてあげることができるようにもなった。

 父は、ダメ人間だった。わたしの視界の中ではずっと。つまり、この家の中では。でも、外での評価はそうじゃない。

 左官屋で、もう20年同じ会社で働いている、ベテランの職人だ。ちゃんと弟子のような人もいる。あまり人付き合いをしている姿を見たことがないのでわからなかったが、外ではちゃんと付き合いがある。年賀状やお歳暮の手紙をみたら、いろいろな人に慕われていることがわかった。女性との付き合いも誠実だ。ケンカの原因に浮気を疑っていたけど、他の女の人の、影も形もみえなかった。夜はだいたい家にいて、お酒を飲んでいる。世の中の他の男性に比れば、父はとても真面目な人間だ。

 近所でも悪い話はまるで聞かない。

 それが、なんでうちじゃ、ああなんだろう。


 あんまりいい家庭じゃないのに、わたしは箱入り娘だった。

 家事を手伝うと、なぜか母は悲しい顔をした。今はわかってしまった。母はわたしの仕事を奪わないで、と言いたくて、言えなかったのだ。わたしの存在価値を奪わないで、と。わたしは手伝うのをやめた。母が喜んでくれなかったから。朝は母に起こしてもらっていた。いつも仕方ない子ね、と言いながら、起こしてくれた。小4のとき、これからは自分で起きる、と宣言した。次の日、起きられず、目覚ましにセットした30分後に母が起こしにきた。次の日は、いつもの時間に母に起こされた。仕方ない子ね、と。宣言は、うやむやになって、消えた。

 私は、学校では優等生扱いだったけど、家に帰ると、仕方のない子になっていた。何もやることがなくて、テレビを見るか、ボーッとしていた。

 何でだろうか。何もしなくても良かったからだ。


 そして理解できた。わたしも、お父さんも同じだったんだ、と


 この家では、母が父の身の回りにことを全て先回りしてやっていた。

 甲斐甲斐しく、まるで介護をするかのように。


 この家では、父は母の助けがないと生きられなくなっていた。

 母はわかってやっている。夫を自分に依存させたいのだ。妻である自分に頼りきりのダメ男にしたいのだ。何でそんなことをしたのか。自分の存在価値が欲しいからだ。認めてくれる人がいないからだ。

 わたしは父を嫌った。そう、嫌うように、しむけられた。父と私が仲良くしないように、したのだ。そうすると、どうなる。わたしは、母だけを頼るようになる。結果、この家では、母だけが人とのつながりを持てる、いびつな構造が生まれたのだ。普通だったら、娘が夫を嫌ってたら、放置なんかしない。なんとか仲を取り持とうとするだろう。親子が反目している姿を見ていて、悲しくならないのか? 夫を愛しているなら、なおさらだ。

 酷い態度をとってるのに、父はわたしを、嫌っていないのを知っている。ただ、どうしていいかわからなくて、悲しいだけなのだ。そして、母を憎んでいる。このような状況を作り上げた母に。そして、どうすることもできない自分にいらだっているんだ。父はこの家で、誰からも愛されていない。こころを安息できる場所が、ないのだ。


 状況が整理できて、理解できた。母が愛しているのは、自分自身だけなのだ、と。


 わたしはずっと助けを待っていた。

 救いの手は、きっとくる。そう信じていた。

 どんな滑稽なものでも、人は心の中に希望があれば、どんなに苦しくても、なんとかかんとか生きていけるものだ。


 そんな愚かなわたしも、時が経てば多少は成長するもので、だんだん世の中のことがわかってくるもので。


 白馬の王子さまは、きっとわたしを助けにはこない。


 この世の中にも、物語に登場する白馬の王子さまみたいな人はいると思う。


 だけど、白馬の王子さまが差し伸べる手は、いつもお姫様にむかっているのだ。


 飲んだくれの左官屋の父と、それを支えるスーパーのレジ打ちの母から生まれたわたしは、物語のヒロインにはふさわしくない。


 底辺から成り上がったシンデレラは、栄光を手に入れるため怪しい詐欺師の力を借り、王族の舞踏会に徒手空拳で乗りこんだ。

 彼女は勇気と、美貌と、行動力と、とんでも発想を兼ね備えた化け物ヒロインだ。

 虎穴に入らずんば虎子を得ずというのが、あの物語の教訓だろう。

 なにも持っていない者は、知恵と勇気を振り絞り、リスクを背負って、勝利を勝ち取らねばならないのだ。


 そして、わたしは長年支えにしてきた、心の中の白馬の王子さまに三行半をつきだすことにした。

 彼は今ごろどっかのお姫様にご執心に違いない。


 わたしが好きだった心の中の王子さまは、5歳のとき毎週見ていた、テレビアニメに出てくる主人公がモデルだ。

 彼は、頭が良くて運動神経が抜群で、優しくてカッコよくて、ときにクールでときに熱くて、悪は決して許さなかった。

 そして、ハンサムでお金持ちだった。

 いきなりひどくハードルをあげてしまったものである。初めてのハードル走で、棒高跳びのバーを置いてしまったようなものだ。

 初心者によくあるミスである。


 中学3年生になると、もしこの王子様を見つけても、べつに付き合えなくてもいいなと、思うようになった。

 だんだん歳を食えばわたしも自分の価値がどのくらいかわかってくるもので、こんな完璧な人間と欠点だらけのわたしは釣り合わない。

 もし結婚できたとしてもわたしが彼に一方的に依存する、ひどく歪な人間関係になる。そんな付き合い方は、きっと私が苦しい。

 もしそんな人が現れたら、いつも遠くからながめていたな、というのがわたしの心境の変化の全容だ。


 でも、そんなヒーローはみつからなかった。

 この世の中の優しい心を持った人はどこか弱く、強い心を持った人はどこか傲慢だった。


 ヒーローは全ての人間に優しく、全ての人間を、対等な存在として見る。私にだけ、少し特別扱いをするとなおいい。

 頭が良くて人の心を知りながら、決して人の心は傷つけない。

 スポーツ万能だけど、決して驕ってはいけない。自信は無くてはいけないが、それが傲慢へと変化したら、そこでヒーロー失格だ。

 ちょっと間抜けでお茶目で、誰からも好かれる。でも最後はビシッとキメなければいけない。

 そして、どんな人も見捨てない。どんな人でも、その手で守る。悪はゆるさないけれど。

 絶対条件ではないけれど、出来ればハンサムでお金持ちだとなおいい。


 そんな人を、私はずっと探してた。

 きっとみんなは言うだろう。

 そんなヤツ、いるわけねーだろ。

 と。


 でもずっと待ち続けていた人が、実は空想でしか存在しないなんて、ちょっとわたしが浮かばればいんじゃなかろうか。


 そんなことは許されない。

 許されないのだ。

 世の中にヒーローはいる。

 いなければならない。


 でも、もしかしたらわたしはヒーローに出会うことが出来ない運命なのかもしれない。

 その可能性は、大きい。


 そして、決意した。

 それなら、わたしが、ヒーローになってやる。

 わたしがヒーローになれば、いつまでも探す必要もなくなる。

 そう、理想のヒーローを、わたしが作り上げればいいんだ。

 と。


 木漏れ日差し込む教室の窓際で、ずっと本を眺めていた、深窓の令嬢兼左官屋の娘のわたしは、その手に持っていたペーパーバックの小説を、そっと手提げ鞄の中にしまった。


 高校1年生の、春のことだった。


 わたしは、授業を受けることと宿題を忘れないだけで、特に成績は悪くなかったので、今まで進んで勉強したことはなかった。

 でも、ちょっと成績がいい、じゃだめなのだ。自習時間を大幅に増やした。

 まず中学の学習範囲を総復習することから始めた。基礎がなければ応用など出来ようがない。

 頭の中に入っていなかった内容を、知識に空いてる穴っぽこに埋められるだけ埋め込んだ。

 高校の範囲は、まだ始まったばっかりだからどうとでもなる。

 くそう、勝手に動くな、点p。わたしはお前の問題を解決したいだけなんだ。


 ヒーローは、頭がいい方がいい。出来れば、学校で首席争いができるくらいに。

 そして私は、1学期末のテストで学年1位になった。

 中間テストの57位からのごぼう抜きである。

 この結果に教員一同と学年上位陣は戦慄した。そして、内密に私の身辺調査が行われたらしい。

 不正などなかった。遺憾である。


 クラスでも話題になった。友達にすごいねすごいね攻撃を食らった。

 だが、この結果は、当然のように振舞わなければならない。

 喜ばないのもイヤミになる。

 私は平静を装い、クールにありがとう、うれしかった、と微笑んだ。

 その日の昼休み、トイレの個室に30分ほどこもった。そして、思う存分ニヤニヤ笑って喜びを噛み締めた。

 トイレから出ると、友達が心配そうに体調を気遣ってくれた。

 ヒーローだって人間だ。便秘になることだってあるんだ。どう思われようと気にしちゃダメだ。


 わたしは、運動神経がいいほうじゃなかった。

 身長が170cm近いので、体格で何とかゴリ押しできる場面もあったけど、基本的に体育の時は、なるべく目立たないようにこころがけていた。

 しかし、運動できないヒーローなどさまにならない。

 悪と、物理的に戦う気などさらさらないが、体を酷使しなければいけない場面はたびたびおとずれるだろう。

 木に絡まった風船をジャンプして取るシチュエーションとか。


 まずは基礎体力、ランニングからはじめる。朝5時に起きて、浅川に沿って走り、7時に家に帰る。

 大事なのは距離ではなく、時間。

 放課後になったら、体育の授業でバスケットボールが始まったので、それだけに絞って練習する。

 ドリブルから、ゴール下まで行ってシュート。ドリブルで、ゴール下まで行ってシュート。

 ここで、わたしはドリブルでボールが手につかないことがあることがわかった。

 シュートはやめてダムダムダムととにかくドリブルを続ける。

 ドリブルしながら、ボールの高さを変えていったり。

 この練習で上手くなれるのか、不安になる。

 そんなわたしを見かねたのか、バスケ部の同級生が一緒に練習してくれるようになった。

 コーンを置いたジグザグドリブルを教えてもらった。ドリブルの進路に立ってもらうだけで、プレッシャーが全然違った。

 2人になったら、やれることが物凄く増えた。

 人の力を借りることの大切さが身にしみてわかった。

 ヒーローは、一人で抱え込んでは、いけないのだ。みんなに力を借りて成長するのも、ヒーローだ。

「こんどの体育で、一緒のチームをくもうよ」

 わたしから誘った。

「いいね!」

 1つ返事だ、ありがとう。

 それからは、パスプレイを何度も繰り返した。


 さあ、体育の時間だ。

 約束通り、バスケ部のゆうちゃんと一緒のチームになれた。

 経験者だ、思いっきり頼らせてもらおう。

 私の役割を決めてもらった。

 ハイポストに入っていって、ボールが来て人がついていなかったら、ジャンプシュート。

 マークが付いてたら、フリーの味方にパスするポストプレイ。

 パスが来なかったら、味方がフリーになるようにスクリーンをかける。

 初心者なんでこれだけを徹底した。

 そして毎試合、わたしはその試合の最多得点を叩き出した。

 わたしは自分の仕事をこなしただけ。戦術を考えたゆうちゃんの勝利である。

 体育で、こんな活躍できる日がくるなんて、思ってなかったなぁ。

 絶対に驕ってはいけないぞ、わたし。


 心の許せる友達はいたが、人付き合いは狭かった。

 わたしは決心した。この学校の全ての生徒の顔を覚えよう。


 まず、すれ違う生徒全員に挨拶した。

 無視されても気にしなかった。

 泣かなかった。


 ヒーローは、みんなを守らなければいけない。

 悲しそうな人や、つらそうな人を見たら、勇気を出して、必ず声をかけた。


 どんな悲しみ、つらさだって、その人にとっては大きな問題なんだ。


 信号を渡れないおばあちゃんの手を取る。

 たくさんの荷物を抱えているおばあちゃんの荷物を運んであげる。

 断られた。うん、信頼を得られなかったわたしが悪い。もっと自然な笑顔の練習だ。

 電車の中で疲労困憊で寄りかかるサラリーマンには、黙ってそのまま肩を貸す。

 ベビーカーに乗ってる赤ちゃんがこっちを見てたら、優しく微笑みかける。


 おせっかいと思われようが、黙って見てるよりずっといい。

 困ってる人がいる。素直になれない人がいる。遠慮している人がいる。助けを求める人がいる。


 助けを求めてる声を待つんじゃダメなんだ。わたしが、声にならない声を見つけるんだ。


 目まぐるしく、かつてない充実した時間を送るうち、わたしは2年生に進級していた。

 わたしは、強くなった。心も体も。

 まだまだ理想のヒーローには程遠い。でも、ちゃんと、一歩ずつ近づいてる。

 今は、まず、後輩の顔と名前を全員覚えることからだ。

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Tokyo, The ghost city 直木新 @skanda_j

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