T-2話 善と悪

カチャッ


無機質な音を立て、標準を構える。

見据える先には、セルリアン。

石をぶち抜ければ一発で仕留められる。


バンッ!


森の中に発砲音が響いた。


前方に目を凝らすと、セルリアンが弾け飛んでいた。


すぐに散弾銃を肩にかけて、大きな翼で

滑空し、地上へと向かう。


地上には先程のセルリアンを引きつけていた彼女の姿があった。


「毎回それ使うの?」


呆れた目で尋ねてきた。


「こっちの方が自分の体よりも使い易い」


淡々と答えた。


「その音嫌なのよね」


「この音がいいんだろう」


到底理解できない。

私はサーベルタイガー。

この銃を好んで使うのがタカ。

セルリアンハンターとしてクリホクで活動している。


私も私で特殊な事情を抱えており、

彼もまた特殊な事情を抱えている。


私と彼との出会いは、森の中だった。


特殊能力を有して生まれた私は、非常に

戸惑いのあまり、自身の力、野生の本能と能力をコントロールできなかった。


結果多くのフレンズや人間を怖気づかせてしまった。


1人になりたくて森の中に篭っていたある日、タカと出会った。


また逃亡しようと思った彼は、暴力的にも

銃を構え、私を狙ったのだ。


その音を本能的に拒絶した私は彼と戦った。


しかし、どちらも一歩譲らず、決着はつかなかった。


私は体力の限界、彼は弾の限界。


「お前みたいな滅茶苦茶速い奴は初めて見たよ...。仕留めたかったな」


「それはこっちのセリフよ...。

あなたみたいな武器を使う奴は初めて見た。切り裂きたかった」


これが、彼との出会いだった。


それから彼と私は、クリホクの自警団を

形成し、セルリアンハンターとして、

日夜どちらがセルリアンを多く討伐できるか競い合っていた。


過去を知ったのは、このクリホクの雪山で猛吹雪に襲われた際、身動きが取れなくなった時の事。


見つけた洞窟で、身を寄せあい寒さを凌いでいる時、銃を大事そうに拭いていたので

尋ねたのだ。


「どうして、そんなもの扱えるの?」


「人間の時に慣れ親しんだからな」


「えっ?」


彼が何を言っているのかわからなかった。

しかし、その後丁寧に事情を話してくれた。


彼は元々、人間の男子だった。

20歳の時、フレンズを密猟するグループに入ったそうだ。理由はお金を稼ぐため。

ガンマニアだった彼は、銃の扱いに秀でており、将来は自衛官も志していた。

しかし、ある時ここの職員に密猟の一部始終を見つかってしまい警察に連れて行かれそうになった。だが、彼は当時行われる予定だった人間をフレンズに変える実験の被検体になる代わりに見逃してもらうという交渉をし、実験の結果、タカのフレンズになったそうだ。


彼は私に長い話をした後、“お前に話したから過去のことはもう話さない”と言った


彼を好意的に見るようになったのは、

この頃だろう。


ある日、海にてセルリアンに襲われていたフレンズに出会った。


それが、イッカクだった。


彼女にも私と彼の関係は秘密だ。







ある日のこと、クリホクエリアのフレンズの健康調査を行っていたツバサは有るものを見つけ、思考していた。


タカのDNAだ。


「桜山さん、これ見てもらってもいいですか」


資料を彼女に手渡した。


「フレンズに人間の男子の染色体がある事って普通ありえないですよね」


「...確かに」


小さく唸った。


「もしかしたらと思ったんですけど…

メンフクロウが書いてくれた人間をフレンズ化した時の実験結果の資料と色々合致することがあるんですよね」


「つまり、タカも人間からフレンズになったと?」


「はい、私はそう思ったんですけど…」


「なら、遺伝子に詳しい専門家がいるから連絡してみるわ」


「ありがとうございます」




それから数週間後...

ツバサはある提案をしにタカの元を訪れた。


「タカ、久しぶり」


「ツバサか...」


「ちょっと話したい事があるんだけど」





「ねえ、もう一度人間になってみる?」


「...は?」


「あんた人間からフレンズになったんでしょ」


「...」


「サーベルに自分が人間だった事を話したんでしょ。彼女、あんたに惚れてるよ」


「お前に何がわかる...」


彼女は徐々に苛立つ様な口振りだった。


「だって、あんた呼ぶ時、サーベルったら、“あなた”とか言ってるし。

人間の姿で告ってあげたらいいんじゃない?」


「...余計なお世話だ。

大体俺はアイツは好きじゃない」


「この薬、渡しとく。

1日だけ、人間になれる薬。私の同僚の知り合いが作ってくれた。使うも使わないも、あんたの自由だから」


「...ふん」


素っ気ない態度だった。






人間の姿。

この醜い姿から解放される。


「へへっ...」


人間に戻ったらやりたいことがあった。




ツバサから薬を貰ってから数日後。

彼は意外にも早く行動を起こした。


「タカ?どうしたの。こんな廃墟に呼び出して...。イッカクに嘘付いて来たんだけど...」


「...サーベル」


物陰から出てきたのは白いシャツとジーンズを履いた癖毛のある黒髪の男だった。

若く、178cm程の身長がある。


無言で銃を構えた。


「お前を狩りたかったんだよ。

...出会った時からな」


「その姿は...。

人間の時のあなたなのね」


話に聞いていた、人間の時の彼が目の前にいる。銃を構えているその姿に恍惚とした。


「...なにやってんだ」


「そんな銃構えたって、

あなた、人は撃てないでしょ?」


微笑みかけた。


「...笑わせるなよ。

俺がさっき言った言葉を忘れたのか?

お前を狩りに来たって...」


「私ね...、あなたが好きなの。

撃ちたいのなら、撃ってもいい。

あなたに殺されるなら、嬉しい」


「...じゃあ、撃ってやるよ」





彼女はタカの腕を取り、幸せそうな顔を浮かべていた。


「...バカか」


ツバサに秘密裏に頼み貰った煙草を吸って、天に煙を吐いた。


「タカは人でもフレンズでも、どっちでもいい...。あなたという存在が...、とても大切なの」


目を閉じ、彼に抱きついた。






その後...。


バンッ!バンッ!


セルリアンの破片が飛び散った。


「ナイスショットね、あなた」


ウィンクして見せた。


「...うるさい」



(先輩達...、前より仲良くなった...?)


イッカクは不思議そうに2人を見つめた。


今日もクリホクの安全を守るため、セルリアンハンターは飛び回るのだった。

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カタテノツバサ みずかん @Yanato383

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