短編集

T-1話 ただいま

「わたし、ニホンオオカミ!ツバサに届け物!」


ニホンオオカミと名乗るフレンズは懐から

ある物を取り出した。


「私の...、スマホ...」


そう言えば持っていない事に気付いていなかった。


「ありがとう...」


礼を言って、スマホを受け取ると、

バイブレーションの振動が手に伝わった。


画面には通知、母親からの電話だ。


「ツバサちゃん...?」


ジューンの顔を見て、複雑な気持ちになった。


この電話に出たら、“ジューンちゃん

に会えなくなるのでは?”


そんな想像が掻き立てられた。


震える手の中で、またしても選ばなければならない。



【通話終了】【応答】











「...もしもし」















「...!ツバサ...!」


(お母さん...)






数日の間は記憶がハッキリと覚束無く、

ボーッと喋ることも忘れ、窓の外を見つめていた。




医者から聞かされた話だと、私はあの飛行機が墜落した後救助され、意識不明の状態だったらしい。


後日、警察の人が来て、詳しい話をしてくれた。


生存者は“私一人”だったらしい。





私は同級生や友人を失ったという、

ショックよりも、ジャパリパークの

クリホクエリア、ジューンを失ってしまったという喪失感の方が大きかった。






数ヶ月後


「...いってきます」


「ツバサ、また出かけるの?

…あなたいい加減に」


親の声を遮るように、外へ出た。


高校に行くという考えは無かった。

私の行き先は動物園だ。


何かに取り憑かれた様に私は、ジェンツーペンギンを見に、ほぼ毎日。


ペンギンの展示ブースの前に一日中立ち尽くす。


いつか、また“片腕のないペンギン”に会える気がして...。

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