第13話 くりほくえりあ
あの騒動のカンセイクリホク境界での一件後、フレンズは全て自由になった。
そして、私は園長であるかばんにクリホクでの出来事を全て話した。
メンフクロウの実験の事なども含めて。
パークセントラル-本部内会議室-
「ツバサさん、あなたのおかげでクリホクの現状を知る事が出来ました。ありがとうございます」
「クリホクエリアは解放して頂けるんですね」
目を輝かせながら尋ねた。
「完全オープンにする為には、株主達を説得させる必要があります。その為には、あなたの協力が必要です」
「力になります」
大きく頷いた。
「貴女をクリホクエリア管理担当責任者、及び、特殊動物飼育担当管理者に任命します」
やたらと長い肩書きが私に加えられた。
「ありがとうございます」
「でも、パーク職員はライセンスを取らないといけない決まりだから、暫く基本的なことは桜山さんにお願いして、サポート役にまわって欲しいんですけど」
「わかりました」
「じゃあ、1週間後に臨時株主総会、記者発表、プレスリリースの流布とかをやるから、それまでに...」
紙の束を机に置かれた。
「クリホクエリアの能力を有してるフレンズの詳細記録と、ライセンス修得試験の勉強をお願いします」
「は、はい...」
その量の多さに引いてしまった。
まあ、フレンズの為を思えば、学校の宿題より楽だ。
外に出てジューンと合流した。
彼女は獣医の検査を終えたあとだった。
「大丈夫だった?」
「うん...、身体には問題ないけど、
義手を作るか聞かれた」
「そうなんだ...。
ジューンちゃんの好きなようでいいんじゃない?」
「どうしようかな...」
「ゆっくり考えなよ。
こうして、自由になったんだし」
「あはは...、そうだね」
「そうだ、この後今日は特に予定無いからさ、ジューンちゃんが行きたがってたPPPのライブ行かない?」
「えっ?...行けるの?」
驚いた様子でこちらを見た。
「チケット無いけど私一応パーク職員扱いだし、スタッフですって言えば通してくれるでしょ」
かばんに渡された即席のパーク関係者である事を証明する名札を見せながら言った。
「今からだと、ナイトライブ行けるんじゃないかな」
「嬉しい...!!行きたい!!」
彼女がこんなにも、嬉しそうにしてるのは初めてだった。
最初の出会いを考えれば大きく成長した。
本当に彼女と出会えて良かったと、思っている。
そして、1年後
私はライセンスの資格を取り、桜山さんの
助けも借りつつ、クリホクエリアの管理をしている。
ある日の昼下がり。
事務所で休憩をしていると...。
「ツバサちゃん、サーバルちゃん達だよ」
窓を見ながら、言った。
「はぁ...」
溜息が漏れた。
サーバルが来た事が憂鬱ではなく、
サーバルといつも一緒にいるあの帽子を被った黒髪の男児。
かばんの息子、“ぼうし”とか言う奴だ。
とにかく口が生意気なのがイラつく。
急いでシュークリームを口の中に頬張った後、ココアを飲み流し込む。
後ろ髪を掻きながら外に出た。
「やっほー!ツバサちゃん」
「よお、彼氏出来た?出来るわけないか」
問答無用で彼の頭を殴る。
「痛ってぇ!何すんだ!ママに言ってやるぞ!」
この7歳児、うるさい。
「あのバカ親...、ちゃんと教育してんの?私は年上なんだから敬語を使いなさい。
それで彼氏がうんたらかんたらとか言わないで」
「サーバル!あのド田舎セルリアンをやっつけてよ!」
「そんなの無理だよ...」
サーバルも困り果てた顔をする。
「山形は田舎じゃないし!!
山形が無かったら日本はサクランボも将棋も芭蕉の名句も存在しないよ!それにセルリアンって何!そのうっさい口接着剤で止めてやろうか!?」
「まあまあ、落ち着いてよ…、ツバサちゃん。大人気ないよ。それにまだ子供じゃん...」
「ハァー...」
これだから子供は...。
ていうか、フレンズに子守りを任せる
園長も園長である。
「なあ、ジューンあそぼーぜ!」
「いいよ...、ツバサちゃんはどうする?」
「...え?」
特にこれと言って今すぐ取りかかる仕事は無い。
「よし、鬼ごっこしよーぜ!
ツバサが鬼な!」
前振りもなく鬼に指名されムッとした顔を見せた。
「覚悟しなよ、特にアンタはね」
ぼうしを指差して言った。
「おにごっこだね!負けないんだから!」
「ツバサちゃん...、怒り過ぎないでね」
「ちゃんと10数えてからスタートしろよな」
「はいはい...、じゅー!きゅー...」
余談だが、園長かばんに聞いた所、
私が沖縄に旅立った日、この周辺に飛行機が墜落したなんて情報は無いと言う。
そして、ニホンオオカミからスマホを渡された時掛かってきた母親からの電話。
あの後すぐ電池が切れてしまった為、再度充電したが、不思議な事に私の家族に関するデータが消失していた。
こちらでもパソコンを使い、私の家族について調べたりもしたが、“私の家族”に関する事が一切出てこない。
もしかしたら、私はあの墜落事故で...。
ここは空想の世界なのだろうか。
それとも、死んだ後の世界か。
多分答えは出せないと思う。
家族と会えないのは寂しいけど、
私は1人じゃない。
ジューンちゃんやクリホクの変わったフレンズ達がいる。
こんなヘンテコな世界で生きていられるのなら、それで幸せだ。
「さーん、にー、いーち...!
待ちなクソガキ!!」
今が一番楽しい。
そんな時間を永遠に過ごしたいと思う、午後だった。
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