第12話 かんせいえりあ

セルリアンの猛攻を耐え抜いたフレンズ達だが、体力は限界であった。


ツバサはコマドリ達と協力し、門のスイッチを押したものの、開いたのはカンセイ側の扉で、クリホクを解放するものではなかった。


夜明けが迫る中、ツバサは選択を迫られていた。




「...」


3分近く黙り込み、一点を見つめるツバサに誰も声をかけることが出来なかった。


ここで諦めざる負えないのか。


いや、諦めるなど。


「ジューンちゃん」


名を呼ばれ、恐る恐る彼女の顔を見た。


「一緒に扉を壊そう」


何を言うかと身構えていたジューンに、

その答えは耳を疑った。


「こ、壊す?」


「ダメかもしれない...、

だけどあの向こうに人がいるのは確か。

あの人達に“本当のクリホク”を伝えるには、私が口で伝えるより、扉を開けた方が良いと思う」


「...」


「ジューンちゃんと私が、扉を開けてこそ価値がある」


答えには迷わなかった。


「...わかった」


この長いようで短い旅だったが、自分自身成長したという実感がある。

彼女と一緒なら、自分の片腕でも、扉を開く事が出来るかもしれない。

彼女もまた、“諦める”という言葉は辞書に無かった。






「よし、ドローンでゼルリアンを投下だ」


神前教授の指示があった。

赤色のジャンパーを着た職員が黒色の

ドローンを操作、そのままクリホク側に行った。


「座標確認、オッケーです」


神前がモニターを覗き見る。

瓦礫の山に目を疑った。


「随分と荒れてるな」


「多分、フレンズじゃないですかね」


と、職員が言う。


「建物を粉砕する程の力を有するのか。

ますます危険だ。人に危害を及ぼしかねないな」


「準備完了です」

「こちらも完了です」

「いつでもスタートできます」


「よし、ゼルリアンを投下だ」



一方トラックに設けられた司令室の

外でかばんはずっと立ち尽くしていた。


一度中に入った桜山だが、心配になり出てきた。


「来星さん...、

少しお休みになられては?」


「...僕は何か大きな間違いを犯したようで、気が気じゃないんです」


その声は何時もの様な明るさでは無かった。


「元々フレンズであった来星さんのお気持ちはわかります。ですが、あの神前教授も仰った通り、個人の意見より皆の意見を優先させる方が、このパークの今後にとって1番賢明な選択なのではないでしょうか」


彼女の顔色を伺いながらそう話した。

すると...。


「...桜山さん。僕と賭けをしませんか」


「か、賭け?」


突拍子もない返答に驚く。


「今から30分以内にあの扉を誰かが叩いたら作戦を休止し、僕はあの扉を開けます。もし、30分以内にあの扉を叩く者がいなかったら、僕は会社の社長と園長の職を辞めます。

桜山さん、どっちに賭けますか?」


突然の選択にたじろいだ。


「別にどっちに賭けようが僕は怒りませんし、桜山さんに迷惑は掛けません」


「えっと...」


もう一度、彼女の顔色を伺った。


「...前者で」


何故そう判断したのか。自問自答したが、答えは不明だった。










「...なんだアレ」


タカは目を細めその物体を見つめた。


「なによ?」


サーべルも同じ方向を見た。


小型の黒色の物体が空中を浮遊している。

すると、水色の固形物が地上に落下した。





「エゾさん、お、起きてください!」


チュパカブラがエゾオオカミの身体を揺さぶる。


「なんだ...、おらぁ疲れたんだよ...」


「セルリアンですよ!」


「は?」


チュパカブラの指が示す先を見ると

水色のムニュっとした1つ目の存在がこちらを見ていた。


「ッチ...、執拗い奴らだな」


右手を上げ、残った体力で能力を使おうとした時だった。


「...!?エゾさん!!」


チュパカブラの目の前で、唐突に地面の下から、音も無く、奥にいるセルリアンと同じ色、同じ質感の物に包み込まれてしまった。


「あっ...あっ...」


愕然とし、身動きが出来なかったチュパカブラも...








「流石はゼルリアン。熱源を目標に相手を捕獲するという能力は完璧のようだな」


神前は勝ち誇った表情を浮かべた。



音もなく忍び寄る捕食者に気付く者は...


「あっ...!」


「サーベルっ!?」


冷静なタカは一瞬のうちにその異変に気付いたが、


(クソっ、何だこれ...!!)


空中に逃げようとしたが、1秒遅かった。


「なっ!!」


ハヤブサの声を聞いて振り返ると謎の水色の物体に包まれている。

ツバサには遠目に、それがセルリアンの一部の様に見えた。


「なにあれっ!」


ジューンが恐ろしさを感じツバサにくっつく


「知らないよ...!」


突然地中から飛び出した物に戦々恐々した。取り乱す2人にメンフクロウは早口で


「セルリアンではないわ!彼らは身体を出す範囲にせいげ」


「メンフクロウ...!」


説明していた

メンフクロウ、横で寝ていたクラゲ達も、コマドリ達も包まれて、琥珀のようになってしまった。


「...!!危ねぇ!!」


ライチョウが、2人を突き飛ばした。


「きゃっ!?」


ジューンが声を上げる。


「ふふっ...、いい声ですな。

私の作品が実写化したら是非...いや!

そんな事よりあの扉に行った方がいいと

作家の勘が」


「ラ、ライチョウ先生...!!」


「ツバサちゃん...!他のみんなも!」


真下から青色の物体が点々と見えた。

もう日が登り始めてる。


悩んでいる暇は無さそうだ。


「作家の勘を信じようっ!」


「でもここからどうやって...!私...、飛べないよ!」


地上まで約30メートル程の高さがある。

今までは鳥のフレンズが運んで来てくれた。遠回りしたら時間掛かる。

選択肢はない。


「このよく分かんない状況で動けるのは私達しかいない!!ジューンちゃん!!」


その呼びかけは力強い物だった。


「...!」


唯一の腕をツバサに握られた。


「鳥は両方の翼で飛べるんでしょ?

なら、私がアナタの片腕になるから!!」


二の句も告げないまま、ジューンは引っ張られた。目の前に、地面は無い。


(無理かもしれない...、けど、

ツバサちゃんとなら...、飛べる...かもしれない!)


昔の自分であれば、きっと、この世界の事をよく知らなかったし、自分と同じ境遇のフレンズとも出会えなかった。


ツバサには、色々振り回されたけど、感謝しかない。


自分を友として認めてくれて、そして...


地面から足を離した瞬間、野生解放した。


(私にも能力が...!!)






(後10分...)


桜山は腕時計を確認した。

かばんは腕を組み、じっと壁を見ているだけだ。






「ジューン!」


「...はっ?」


気付いたら地面にいた。

自分でも何があったのかハッキリとわからない。


「急ごう...!」


「...うん!」


「待ッテ、ツバサ」


ボスが唐突にぴょんと肩に乗った。

走り出しながら、彼の話を聞いた。


「なに?」


「君ニ、暫定パークガイド権限ヲ与エルヨ」


「何それは...」


「僕達ラッキービーストヲ、自由ニ、操作可能ニナルヨ」


何故唐突に...、と思ったが、考えている暇はない。


「さっさとやって!」


「アリガトウ...、ツバサ、ジューン」


彼の挨拶は特別な物に聞こえた。


「パークガイド承認済ミ。

最緊急事態用プログラム...、起動」


赤く耳が光出した。


「ボス...?」


ツバサ心配そうな目を向けた。


「ジューン、僕ガ何モ出来ナクテゴメンネ」


「そんなことないよ!」


「ツバサ...、コノパークハ、楽シカッタカイ?」


「...もちろん」


「僕モ、楽シメタヨ」


ぴょんと腕から飛び出し、数メートル先の扉に向って行った。


「ボスっ...!!」


「待って...!!」








「あと3分ですね」


桜山に語りかけた。


「来星さんには、何が見えてるんですか?」


「...わからない」


「はい?」


「けど、妙な胸騒ぎがするんです。

明確には言葉で上手く言い表せないんですけど...、何か大きな事が...」



ボカーンッ!!!!!!



爆発音が響いた。


「ボ、ボス...」


「そんな...」


ツバサとジューンは唖然と立ち尽くした。

彼は、“扉を破壊する為”に、自爆した。

しかし、扉は固く、傷すら付いていない。







「皆さん、休憩しましょう」


「何を言ってるんです来星さん!」


「神前さん!余計な事はしないでください!もう機械も動きません!」


「別の部隊を投入して...」


「いい加減にしてください!

園長はこの僕です!即刻あなたをここから排除できますよ!」


「....」


一喝され、神前は言葉が出なかった。


「ゼルリアンの分解方法は?」


「...海水だ。海水を掛けろ」


頭を下げ、かばんは直ぐに門の前に立った。






キィィイイイイイイ...





壁の向こうの2人は互いに徐々に開く、

扉を見つめていた。


そして、ついに...。


扉は完全に開かれた。


目の前には、赤いシャツに白衣を着た黒髪の、清楚な女性の姿があった。




「...はじめまして。...君は」


「...ッ!」


「ツバサちゃん...!?」


彼女に会った瞬間駆け出した。


「たぇっ...」


「ねえあんた!もしかして園長!?」


白衣を掴み揺さぶる。


「そ、そうです」


「アンタには言いたいことが山ほどあるけどねぇ!1番言いたいのは...、

クリホクを自由にして!あとフレンズも!」


「それは、わかった...。今日中に準備に取りかかるよ。ところで君は、ヒトかな?」


「そう...、村山ツバサ。中学三年生。

飛行機が墜落しちゃって、このクリホクに来たの」


「飛行機が墜落...?そんな事あったかな」


首を傾げた。


「は?」


「あ、まあ、いいや...。

僕は来星かばん...。かばんって呼んで

今はこのパークの園長兼社長兼研究者。

あの子は?」


「ジェンツーペンギンのジューンです」


一時は腕に行っていた目線だが、直ぐに

ツバサに戻った。


「村山さん」


「ツバサでいいです...」


「ツバサさん、後で色々お話を聞かせて下さい」


「いいけど...」


そんなやり取りをしている最中だった。


「わぁーーっ!!ツバサ!!」


「えっ、誰!?」


唐突な事が多すぎる。


「わたし、ニホンオオカミ!

ツバサに届け物!」


ニホンオオカミと名乗るフレンズは懐から

ある物を取り出した。


「私の...、スマホ...」


そう言えば持っていない事に気付いていなかった。


「ありがとう...」


礼を言って、スマホを受け取ると、

バイブレーションの振動が手に伝わった。


画面には通知、母親からの電話だ。


「ツバサちゃん...?」


ジューンの顔を見て、複雑な気持ちになった。


この電話に出たら、“ジューンちゃん

に会えなくなるのでは?”


そんな想像が掻き立てられた。


震える手の中で、またしても選ばなければならない。



【通話終了】【応答】



(まだ、このパークにいたいな…)
















『続いてのニュースです。

先日、修学旅行生を乗せたXX航空沖縄行きの926便が東シナ海上空で墜落した事故で、唯一救助され、意識不明の重体となっていた15才の女子中学生が、今朝都内の病院で亡くなりました。これにより、生存者0名、死者は合わせ220名となりました。

この飛行機事故原因は、“バードストライク”によるものだと、事故調査委員会は結論付ています。』

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