第11話 ぜるりあん

「...」


私はその冷たい風を浴びて薄目を開けた。


(あれ...、私なんで空を飛んでるんだろう...、夢かな...)


「ツバサ!!起きてくださいよ!」


大きな声で怒鳴られる。

この声は。


「あれ?ライチョウ先生、何で私を...」


「アレだよアレ!」


目を擦って見ると夜でも認識できる

カラフルな物体が何匹も動いている。


「アレって...、セルリアン!?」


「そうだよ。いきなり現れたんだ。

嫌だねぇ…、全く」


「ジューンちゃんは!?」


「ハヤブサに任せた。一応あそこの小高い丘まで私らが避難させるって事にしたんだ」


ライチョウから事情を聞かされるが全くもって理解出来なかった。


降ろしてもらった先にジューンがいた。


「ツバサちゃん!!」


安堵の顔が見られたので何とか一安心

した。崖から遠くを見ると、白色の光が点灯している。


「何とかして...、皆に指示をしないと...」




一方地上では。


「あんなツメとキバを持ったセルリアンなんて見た事無いですよっ...」


苦しい顔をしてイッカクが言う。


「その割に動きが遅いのが幸いね。

だけど何体も斬ってるのに、全滅する気配がない...」


「だろうな。元凶は壁の向こうだ」


そう言った後、タカはバーンと球体状の

セルリアンに向かって弾を放った。

百発百中、命中し砕ける。


「向こう?」


サーベルが尋ねた。


「ヒトの連中やつらが、機械で持ってセルリアンを量産してるんだ。

流石の俺でもヒトを撃つことは出来ないし、機械を破壊するだけの威力は持ち合わせてない。それに弾数も少ねえしな」


「じゃあどうするの?

私だって能力を使いっぱなしじゃ身体が持たないわ」


「セルリアンが無限に湧き出てきたら食い止め切れませんよ...」


「ちょっといいですか」


3人の後ろに立っていたのは...


「私のチカラも、使って下さい」


「サポートするよっ!」


ホッキョクギツネとホワイトサーバルだった。


「あっ、右から!!」


イッカクの声で右を向いた。

蛇型のセルリアンがスルスルと向かってくる。


ホッキョクは取り乱す素振りを見せず、冷静に右手を構えた。


(私だって...、役に立ちたいんです。

もう...、ひとりじゃない...!)


白色煙が蛇型セルリアンの全体を覆った。


(倒せなくていい...、凍らせれば!)


「すごい...!」


サーベルも息を飲んだ。


大型な蛇型セルリアンは完全に白く凍結し

巨大な氷像と化していた。


「行くよっ!」


ホワイトサーバルは高くジャンプをし、

頭上にあるセルリアンの石を破壊してみせた。


「す、すごいコンビネーション...!!」


イッカクが感嘆として言った。


「感心してる場合じゃねえぞ、今度は恐竜のお出ましみたいだぜ」


「ここは私が...」


猪突猛進するトリケラトプス型のセルリアンに向かい刀を構えサーベルが準備をした時だった。



「離れてな!」


その声と共に、タウンエリアの建物の一部がセルリアン目掛けて重力を無視し飛んできた。


ガッシャン!と凄まじい音がした。


瓦礫の下敷きになったセルリアンは這い出てこない。


「俺はさすらいの冒険者、エゾオオカミだ...」


その瓦礫の上に乗ってカッコよく自己紹介した。


「あ、あの子も能力者かな!」


ホワサーが揚々といった。


「これだけ居るんだ。セルリアンを食い止める事は可能だろう...。万事休すだったな」


タカも内心焦っていた様だったが、

能力者が3人も集まり、この場を何とか持ち堪えることが出来そうだと、判断した。


一方、丘の上では。


「遂に来たの...」


「メンフクロウさん!」


「最も良い方法は壁を破壊するのこと。

あの壁はカンセイ側にコントロールする

機械があるわ。だけど、向こうの人達に見つかったらアウトだけどね。

あちら側が麻酔銃も何も持ってないとは

限らないでしょ」


「どうやったら...見つからずに向こうに行けるのかな...」


ジューンも考え込む。


「見つからない...、今は夜...」


思い当たる節があった。

明るいところは白く、暗いところでは暗くする。


そんな能力を持ったフレンズ...


「私はセルリアンを量産している機械がコンピュータ制御なのは知ってる。クラゲちゃん達」


「そう呼ぶな、無礼者」

「そうだそうだ」


「うわあっ...、ミズアカ...」


「そう呼ばないで、ツバサ」

「ぼくたちはそんな汚くない」


真顔で叱責された。

しかし、メンフクロウに対しての言葉遣いが乱暴なのは、もしかしたら、彼女らはメンフクロウが人間の時に行った実験で生まれたフレンズで、その事を快く思っていないのかもしれない。


「ごめんなさいね。今は緊急事態なの。

協力してくれない?」


「仕方ない...」

「協力する...」


クラゲ達はクルクル上空を回り始めた。




その頃カンセイ側では...


「何だ?コンピュータがフリーズしたぞ」


「なんか頭痛がするわ...」


「耳鳴りがする...」


複数のスタッフが何らかの異常を感じていた。




「何かこの向こう側で起きてるんでしょうかね」


桜山が独り言を呟く。


「...、能力を持ったフレンズがクリホクにはいます。人体や精密機械に影響を与える程の能力を持ったフレンズが居るとは、驚きました。お陰で僕の時計も、タイムラグが発生している」


「やはり、このエリアのフレンズは...」


「桜山さん」


かばんの声で、ビクッとなった。


「僕たちは彼女等の怒りを買ったんです

フレンズはピンチの時、一致団結して、僕を助け出してくれました」


脳裏には後にサーバルから聞いた自身の救出劇の様子が浮かんでいた。



「クリホクは潰せないと、僕は思います」


桜山は驚きの目で、かばんを見つめた。





「ハァ...、つ、疲れますね...

こんなに力を連続で出し切るのは...」


「ひゃぁ...、想定外だぜ...」


能力の使用もやはり体力の消耗が激しかった。ホッキョクギツネもエゾオオカミも

息を切らす。


「エゾさん!こっちです!」


物陰に隠れていたチュパカブラは彼女を一戦から一旦退けさせる。


戦況を見ていたタカも眉間に皺を寄せる。言い出しっぺのツバサがいない。

自分たち単独ではあの門を破壊する事は勿論不可能に近い。彼女らが行動を開始しやすい状況を維持するのが精一杯だ。


(ツバサの野郎...、早くしてくれ)


「はぁ...、お待たせしました!」


「出来る限りの事はやります!」


その声で後ろを振り返った。


「「ツバサの友達です!」」


声を揃えたのはオオサンショウウオと

ウーパールーパーだった。







時同じくして、


「ツバサさん!遅くなってすみません!」


2人の鳥のフレンズが舞い降りてきた。

コマドリとウグイスだ。

彼女らを見たツバサはポンと手を叩いた。


「コマドリ!ウグイス!

ナイスタイミング!実は...」


門を開く為には一度カンセイ側へ回り込んでロックを解除しなければいけない旨を伝えた。


「わかりました...。責任重大ですね」


コマドリがギュッと手を握りしめる。


「頑張って見せます...!」


準備は出来ているようだ。



「ツバサちゃん...!」


ジューンが駆け寄った。


「...無理しないで」


「んだおっけーよ!」


親指を立て、自信で溢れた顔を見せた。



ウグイスとコマドリが両方からツバサの腕を掴んだ。


「行きますよっ!」


朝夜の境界が差し迫った大空に羽ばたいた。






「っ...、何ですかあの四角いセルリアンは...!」


イッカクが苛立ったのはキューブ状のセルリアン。石はわかり易いのに粉砕すると分裂するのだ。


「うみゃあ...、細かいのが処理しきれないよ...」


ホワサーも苦しそうだ。

小さいサイズになった、セルリアンが

ぴょんぴょんと跳ねて襲いかかる。


「小賢しい...」


イッカクが片足を地に思い切り踏みつけた時だった。


刹那として、小さいセルリアンが一掃された。


「ちっちゃい奴は任せてぇ...」


目を光らせ、野生解放を行ったのは...



「全く...、ヤマネは重いでしゅ...」


樹海で出会ったウサギコウモリとヤマネだった。





「2人とも、目を瞑ってください!」


コマドリが叫んだ。

下はもう、壁の真上だった。


その合図で目を閉じた。


暗い所では暗く見える。

あの屋敷で自分達が体験した彼女の能力を

目眩しに使ったのだ。


下にいる者達全員の視界が悪くなった。



「ん?上空にフレ...!?」


監視していた職員も困惑した。

唐突に視界が真夜中の様に暗くなったのだから。



「来星さん...、これって...」


桜山もコマドリの能力にかかり困惑した。


「...」


だが、彼女は動じる事無く、ただ一点、

空を見つめていた。



「大丈夫です。これで、少しはお役に立てたかと...」


「ありがとコマドリ。後は私がやる!」


監視塔の上に着陸した。

目の前の扉があるが、開かない。


(しまった...、鍵か...!)





一方上空。

ツバサ達が行動したのを見過ごしてはいなかった。


「暗闇だろうが関係ねえ。ターゲットは撃ち抜く...」


タカは威力の高い弾を充填し、ガラス越しにドアを狙った。

鍵を破壊するつもりだ。

全ての精神を指先に集中させた。


3発、完全に打ち込めば破壊できる筈だ。


野生解放しながら、


(今だ....!)




バンッ!バンッ!バンッ!



夜の静寂を切り裂く銃声が轟いた。




「ツバサさん、離れて!」


ウグイスが言ったので素早く身を引いた。

3秒もしない内に窓ガラスが破壊される音と何か金属が壊れた様な音がした。


ツバサは急いでドアを引き、中に入った。


ガラスが粉々だ。

窓の向こうには、タカの後ろ姿があった。


「もうちょっと丁寧にやってよ...

怪我すんべ...」


愚痴を零しつつ、開門と書かれた緑のスイッチを押した。


「急ぎましょう!」


再びウグイスに急かされ、先程の丘の方へと戻る。


「よしっ...!これで!」


上空で門の方を振り返って見る。


しかし、開く気配が無い。


「...えっ」


訳の分からぬまま、丘に戻ると

緊迫した声でメンフクロウが言った。


「あの扉は二重扉!開けたのはカンセイ側の扉でこっち側じゃない!」


「えっ、何でそれを早く...!」


「そういう仕組みとは知らなかったの!」


ツバサは短く舌打ちをした。

メンフクロウに怒鳴っても仕方ない。


浮遊するクラゲ達も動きが鈍くなってる。


「疲れた...」

「もう寝たい...」


溜息混じりの声が聞こえる。


「でも待って!ハッキングには成功した。

後は...!」


パソコンのエンターキーを叩いた。






「い、今のはなんだったんだ...」


「能力を持ったフレンズだ、きっと。

奴等は俺らに反旗を翻したんだろ」


「あんな恐ろしい能力を持ってたら

潰すという判断は妥当ね」


職員達の間でも動揺が広がっていた。


「...!!セルリアン制御装置の操作が出来ない...!何者かに遠隔操作されてる」


「ま、まさか、フレンズがやったってわけ!?パソコンを扱えるフレンズがいるの!?」


その騒ぎは桜山達の耳にも入ってきていた。


「...本当に手強いですね。私達の作業を妨害してくるなんて」


桜山は言った。


「クリホクのフレンズは他ちほーと比べて、知能指数が倍という報告が出ています。彼女たちなら、コンピュータをハッキングするくらい、容易いことなのでしょう。それに、人間をフレンズへと変える実験が行われているとの内部告発もありました」


「つまり、人間の知識がフレンズになっても生かされてる...?」


「恐らく」





壁の向こう側では...


サーベルは巨大なセルリアンを討伐した。

もう足で立つのがやっと。


タカも立ってはいるものの飛ぶ気力は無いみたいだ。


その他のフレンズも疲労困憊であった。


しかし幸運な事に、メンフクロウがハッキングしたため機械からのセルリアン投入は完全に無くなった。


「や、やった...、全滅させた...」


サーベルの声は少し明るかった。


「ああ...、みたいだが...」


タカが壁の方に目をやった。


ツバサ達も丘の上からその様子を見ていた。


「おお...、セルリアンの動きは封じられたのか。一件落着かな」


ライチョウが言った。


「いえ、まだですよ。扉がまだ開いてません...」


後ろからブタが控えめな声で言った。


「そう。残ってるのはアレだけ...。

アレを開けるまでは、戦いは終わってない」


ツバサはじっとその扉を見つめた。

その横で不安げな顔を浮かべているのは

ジューンだった。


「あなた達、お疲れ様」


メンフクロウが労いの言葉を掛けた。

これでもうセルリアンが無限に湧くことは無い。


「疲れたぁ...」

「もう寝るぅ...」


クラゲ達は力なく地面に落ちた。







「...様子を見に来たが、だいぶ苦戦されてるようですね」


白色に染まった髪にメガネを掛け、如何にも熱心に研究に打ち込んで来たような風貌の男性がゆっくりと近付いた。


「...?この人は...」


桜山が不思議そうな目で見た。


「私は京和大学特別教授の神前と申します」


カンザキと名乗る教授は、口元を緩ませながらかばんに近付いた。


「貴方にお知らせはしてないはずですが、何故いらっしゃったんですか?神前さん」


「それは失礼しました。

いや、副園長に聞きましてね。カンセイに行ったとお聞きしたので...。

それは良しとして、ある提案を持って来たわけですよ」


「提案とは?」


「サンドスターを用いずにセルリアンを

作る研究を私が行っているのはご存知ですよね。それの試験を是非とも、このクリホクでやらせて頂きたいのですよ」


目を細め彼の顔を見た。


「そんな怖い顔をなさらないでください。

サンドスターを用いないので、フレンズ化を解くことは無い。さらに石が存在しません。はたまた、機械と組み合わせることが可能ですので、特定の位置のフレンズを捕らえることが出来るのですよ」


誇らしげに神前は語った。


「しかしそれは...」


「クリホクの能力持ちフレンズは先程からのセルリアンの襲来でバテバテなはず。

一網打尽に出来るのは今しかありません」


「来星さん、私は賛成させていただきます」


「桜山さん...」


「来星さん。彼女たちはあなたの知っているフレンズとは全く違う。あれは怪物だ」


「...」


「私は今からセッティングをし5分以内に

“ゼルリアン”をクリホクに投入します」


「そんな...、勝手にやらないで頂けませんか」


「勝手ではないですよ。一応、副園長の

許可は得ています。そしてクリホクエリア管理担当責任者の承諾を先程頂きましたからね」


下唇を噛み、俯いた。


「色々思う所はあると思いますが、

個人の意見ではなく大勢の意見に従う事が、社会では当たり前の事です」


神前は準備に取り掛かる為に去って行った。

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