第7話 こうざん
図書館を後にし、森の中をスクーターで
快走していると、その出来事は唐突に起きた。
「...!!ボスっ!!」
ツバサが突然叫んだ。
ドンッ!!!
「な、なに!?ツバサちゃん!?」
ジューンも驚き声を出す。
「だ、大丈夫!?」
ツバサは既に衝突したフレンズのそばに
駆け寄っていた。
「いってぇ...」
頭を撫でる。
そのフレンズは犬の様な三角の耳を有していた。
「怪我とか...してない...?」
「ああ...」
立ち上がった。
「俺は冒険家...、それ故に数多くの危険を犯してきた...」
「は、はぁ...」
右手の拳を強く握った。
「組織のヤツらが追ってこようとも、
諦めねえ!伝説の秘宝を手にするまでな!」
「それで...、どこも痛くない?」
「...!君達、俺の仲間になってくれ!」
「はあ?」
唐突に事が展開し、困惑せざるおえない。
彼女はツバサとジューンを左右に、肩を組んだ。
「ニヒル!スリル!デンャラス!
君達、冒険に出掛けよう!」
「ええっ...」
「ちょっ...、あなたの名前は?」
「俺はクリホク...、いや、このパークで唯一無二の危険と隣り合わせの冒険者...!
エゾオオカミだっ!」
「エゾさんどこに連れて行く気ですか?」
ツバサが顔を引きつらせながら尋ねる。
「この近くにこうざんがあってな...
そこには伝説の秘宝が隠されているらしい。俺は冒険者として、見過ごすワケにはいかないからな」
こうざん、と言っても高い山を意味する“高山”ではなく、鉱石が採れる方の“鉱山”だった。入口には古びたレールと、
トロッコが1台...。
嫌な予感しかしない。
「そもそもここって...、
アトラクションかなんかでしょ?」
「人工的に作られたみたいだよね...」
私とジューンはコソコソ話し合ってると、
「君達!ここからは生きるか死ぬかの
世界だ...!油断してると死ぬぞ!」
と、キレ気味に言われる。
「死ぬくらいなら行かないです...」
ツバサが小声で呟く。
「俺達はチームだっ!つべこべ言うんじゃねえ!さっさと乗れ!」
やはり、少し口調が荒い。
「怒らせたらもっと酷くなりそうだよ」
ジューンも不安気な目をしていた。
「背に腹はかえられぬか...」
仕方なく、彼女の元へ急いだ。
カート状のトロッコに乗る。
「んだ、どうやって動かすの?」
「勝手に動く」
「え?」
「はぁ?」
ジューンも私と同じ、反応を見せた。
だいたいコレが勝手に動くなど、戯れ言にしか聞こえない。
だが...
「あれ?動いたよ?」
「マジ?」
「さあ、冒険の始まりだっ!!」
トロッコは加速し始めて行った。
鉱山内部は暗くよくわからない。
ただ、加速しているのだけわかる。
「ねえっ!大丈夫なの!?」
しかし彼女からの返信はない。
ジューンは片手で頭を抱えた。
前方にはポイントがあり、左側と右側に別れている。
「ちょっと、どっちに進むの?」
「右だな」
そう言うとガチャっとひとりでに切り替わる音がした。
(...え?)
3人が乗ったトロッコは右側に行く。
「...ん」
ジューンがキョロキョロと左右を見る。
「どうしたの?」
「なんか...嫌な予感が...」
刹那
ドスンという音と共に片方の壁からオレンジ色のセルリアンが飛び出してくる。
最初に出あったやつと違い、大きい。
「ねえっ、セルリアンが出たんだけど!」
ジューンは慌ててエゾオオカミの肩を叩いた。
「危険と隣り合わせ...!何という快感!このスリルを楽しもうじゃないか!」
「ドMかよ...」
ツバサが溜息を吐いた。
「あ、アイツ早い...」
「あんたスリルとかどうでもいいから早く...」
トロッコは下り坂に突入する。
「ひ、ひえっ...!!」
ジューンが怯えた様に私の腕を掴んだ。
「うええっ!?」
「飛ぶぞっ!!」
スキーのジャンプ台から飛び降りる様に、
滑空する。
「重力どうなってんの!?」
「ふ、普通じゃないよぉ...」
セルリアンを振り切り、下に着地した。
「フゥー...!最高にデンジャラスだ...」
「なまら怖かったよぉ...」
ジューンが小さく呟く。その気持ちはわからなくはない。
「よし、レールが途切れてるから、歩いて先に行くぞ。俺に黙ってついて来い!」
エゾオオカミは自信満々に言い放った。
「はぁ...」
ジューンがここまで疲労しているのを
見るのは初めてだ。
(まだ先があるのかぁ...)
と私も頭を抱えた。
ガサガサ
一瞬の物音で後ろを振り向く。
しかし、何者の姿もない。
(気のせいかな...)
足早にエゾオオカミ達の元に行った。
「....」
坑道を進むと広い場所に出て来た。
天上は高く、パイプが幾つも交差を描いている。
「宝は何処よ全く...。てか出口どこ...」
私は怪訝な面持ちで尋ねた。
彼女は指を天に向かってあげる。
俗に言う、風を読んでいるのか。
「あそこだ」
指差した先は出口でなく、岩で塞がれている壁だった。
「えっ...出れない...よね...」
ジューンの顔色も悪くなる。
「こんな所に監禁されて死にたくないよ」
嫌々な顔をエゾオオカミに向けるが彼女はこちらの心情など一切察していないようだった。
しかし、吐息を吐くと唐突に話を始めた。
「実は、俺はあるフレンズを追ってここまで来たんだ。あんな逃げ足の早いやつは初めてだった...」
「つまり、そのフレンズ追い掛けている途中に私達と出会って、ここまで連れてきたってこと?」
ツバサが目を細めた。
「完全にとばっちりな気が...」
ジューンが小声で言う。
確かにとばっちりを食らったのは間違いではない。
「けど...、エゾさんが言ってるフレンズ本当にここに...」
「...もしかして、自分の事ですか...?」
声の元を探った。
大きな岩の後ろ側から姿を覗かせる、
ツンと後ろ向きに尖った髪、茶色い色のフレンズ。
「おおっ!!君かぁ!!君を追いかけてたんだ!」
揚々とエゾオオカミが声を上げた。
「えっと...、何方ですか?トリケラトプスとか?」
ツバサが容姿を凝視しながら言った。
「いえ...、チュパカブラです」
「チュッパチャプス?」
「チュパカブラだよ、ツバサちゃん...」
「チュパカブラは未確認生物、主に南米で目撃されることが多い。やることは主に家畜の血を吸うこと、そのため吸血UMAとも呼ばれる...」
エゾオオカミは彼女の姿に見とれたように、じーっと見つめながら、暗記した台詞を話すかの様にそう説明した。
「よく知ってるね...」
関心したようにツバサが言った。
「昔読んでもらった本に書いてあった!
本当にいるなんて思ってなかったぜ...」
嬉しそうな顔を浮かべた。
「えっと...、そ、そうなんですか?」
彼女も困惑してる。
「そうだ...。俺は冒険をしていればいつか巡り会えると思ってた...。
君を最初に見かけた時、あれはもしやと
思って後を追ってきたんだ」
「あの、てっきり...、怖い人だと思っちゃって...。だって、なんか、色々叫んでくるから...」
その光景はツバサ達にも容易に想像出来た。どうせ“スリル”だの“デンジャラス”だの叫びながら追いかけたのだろう。
流石に逃げたくなる気持ちはわかる。
「あ、あと、ちょっとだけ、臆病で...
いきなり驚かされるのはちょっと...」
チュパカブラが頬を赤らめた。
「まあ、エゾさん。良かったじゃないですか。秘宝は見つけられたし…」
「いいや、まだ見つけてないぞ」
「は?」
「えっ...」
ツバサのみならずジューンもその言葉に耳を疑った。
「実は、まだ一つも宝を見つけてない...。
本当の財宝を俺は見つけたいんだ」
つまりは、“夢”とか“希望”、“友人”のような
抽象的な物でなく、金銀財宝、現物が欲しいという事...、なのだろう。
「エゾさん...、でしたっけ。
怖い人じゃ無いみたいですし...。
そういう夢を持ってるのは素敵ですね!」
彼女はとてつもなく感銘を受けていた。
「お宝探し、あ、あたしも一緒に探したいです!」
「...何だって?」
エゾオオカミは分かりやすく驚いて見せる。というかそれはこっちのセリフだ。
「訳もなくただ、パークを彷徨ってるだけの人生より、何か目的を持って過ごした方が有意義だと思うんですよね...」
「ただ、俺と一緒に行動してもいいが...
危険が隣合うかもしれないぞ?」
「大丈夫です。エゾさんに追いかけられてる時が1番怖かったですから...」
この言葉には流石に苦笑いせざる負えなかった。
「あのー、私達どうやって帰れば...?」
ジューンは恐縮しながら尋ねた。
「さっき風を読んだが出口はあっちだ。
俺が岩を退かす」
右腕を前にかざす。
ゴゴゴという音と共にゆっくりと持ち上がる。
「手を使わずに...、すごい」
チュパカブラが言った。
「やっぱり彼女もα種...」
「普通に能力持ってるだけっぽいけど。
物体浮遊...、ポルターガイスト?」
エゾオオカミの能力は薄々感づいていた。
トロッコやポイントを手を触れずに操作出来るのは、そういう能力者じゃない限り不可能だ。
エゾオオカミが出口を塞いでいた岩を退かしたが、その通路には思いも寄らぬものがいた。
「セルリアン...!?」
ジューンが息を飲む。
奥の方に3匹見える。
だが、能力を持つフレンズにとってセルリアンなど、怖いものではない。
エゾオオカミはキリッとセルリアンに目線を合わせる。
それからジャスト3秒後。
上に張り巡らされたパイプが勢いよくセルリアンめがけて落下した。
ガンッ!ゴンッ!
石にパイプが激突。
あっという間に3体のセルリアンは消滅したのだ。
「すごい・・・!」
チュパカブラは手を叩いた。
「もしあいつらを上回る巨大なセルリアンが居たら見てみたいものだぜ。
俺なら10秒以内に倒す」
と、ドヤ顔でセリフを決めた。
結局なんやかんやあったが、鉱山の裏側、出口に出ることが出来た。
有能なボスはスタンバイしてくれていた。
エゾオオカミは「俺はもう少しこの山を探索するつもりだ」と言っていた。
彼女の能力で山が潰れない事を祈るばかりだ。
私たちは、クリホクの出口へ向けて、走り出した。
「エゾオオカミハ、ソノ昔、北海道ト呼バレル地域ニ、多ク生息シテイタンダ。
ケド、乱獲ヤ、感染症ナドニヨッテ、明治時代ニハ、絶滅シテシマッタソウダヨ」
ボスはそう解説した。
メンフクロウは"絶滅種やUMAも私たちは生み出した。"と言っていた。
2人は人工的に生み出された者同士、何か惹かれ合う物があったのかもしれない。
「なるほどね...。あの子は異質な雰囲気がしたけど、そういうこと」
メンフクロウは怪しげな笑みを浮かべた。
「二ホンオオカミ、彼女たちは"クリホクの壁"に向かったわ」
「教えてくれてありがとう!頑張って追いかけるよ!」
温かな眼差しで、その背中を見送った。
「ツバサ・・・、彼女もまた、運命を狂わされた、
いや、運命の分岐点に差し掛かっている・・・」
一度口を閉じ、考えた。
「クラゲちゃんたちの所にでも行きましょうか...」
新しく作った、目元だけ隠れる特異なお面を懐から取り出した。
特に意味はないが、この意味のない行動が、未来に影響を及ぼすかもしれない。
「フフッ...」
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