第6話 としょかん

「ここが...、図書館!」


ツバサは目を輝かせた。

随分赤くレンガ造りの趣ある図書館だ。

なんかこんな様な建物を新聞かテレビかで

見た気がする。


「私も存在は知ってるけど...

来るのは初めてだなぁ…」


私とジューンは図書館の扉を開けた。





「私の図書館へようこそ...!」


唐突に舞い降りてきた。


「わっ...」


すると、彼女は2人をジーッと見つめた。


「あ、あの...」


「おっと失敬」


これまた、かなりの変人の様な気がする。

クラゲたちも言っていた通り、クセが強そう。


「まあ、名前は聞いてるかもしれないけど、私はこのクリホク唯一の研究者であり皆から長とか言われてるメンフクロウ。

以後お見知り置きを」


「わ、私は村山ツバサ...」


「ジェンツーペンギンの...、ジューンです」


メンフクロウは左右に歩きながら話し始めた。


「ここに来る客は大勢いる...。

しかし、一目見た時からこんなに強い興味を抱いた貴女達が初めてよ」


彼女は2人に背を向けると左の親指をツバサに向けた。


「ツバサ、貴女は特にゾクゾクする...」


「わ、私が...?」


「奇妙な程に唆られる...

実験に使いたいくらいねぇ...」


「ちょっと何言ってるかわからないんだけど...」


苦笑いせざる負えない。


「貴女がヒトである事は証明済み。

さて、私がやるべき事は貴女に真実を伝える事でしょうね。

けど、単に話してさようならじゃ、つまらない...」


今度はツバサに近寄る。

そして、懐からある物を取り出す。


それをツバサの顔に押し当てた。


「なっ...!?」


「閉鎖されたスペースでインスピレーションが枯渇しているのよ...

それにヒトを久々に間近で見れて嬉しい...」


「メンフクロウさん...?そのお面は...」


ジューンが心配そうに前の方から見る。

彼女がツバサに着けているのは目も口もない真っ白なお面だった。


「何故このような行動をするのか。

私達は似て遠く離れた存在...。

神は我々を嘲るかの如く運命の歯車を狂わす...」


「ちょ、変なこと言ってないで離してよ!何も見えない...!」


「フフッ...」


視界が開けた。


「なんなの...」


「本能的に面を作ってしまう私はどうかしてる...」


再び彼女はツバサを見つめた。


「ツバサに頼みたいことがあるの」


「前置きが長いよ...」


すると、彼女は本棚から一冊の本を取り出し持ってきた。


「私は昔から人任せだった。今も変わらない...」


「はぁ...」


「コレを作って欲しい」


本を開き、間に挟まっている薄い紙を取り出し、ツバサに渡した。


鉛筆で書かれた古い“レシピ”だった。


「ラッキービーストはあなたしか反応しない。だから、あなたしか出来ない事」


「ナポリタンを作って欲しいの...?」


メンフクロウの目を見て尋ねた。


「その通り。私が案内する」


コクッと頷き、翼を羽ばたかせながら外に出た。


(やれやれ...)


料理が自分は得意だったか否かを忘れてしまった。


「ジューン、外行くよ...」


「あ、外!?」




図書館から歩いて3分ほどの所に炊事場があった。スクーターに放置していたラッキービーストにレシピに必要な食材を言った。


「ところで...、なんでナポリタンなんか?」


「後で話す」


ツバサの疑問に、彼女は答える素振りを全く見せなかった。


薪とマッチ、食器に至るまでボスは用意してくれた。有能だ。


「私、何か出来る事あるかな...?」


ジューンが聞いた。


「じゃあ...、鍋に水を入れといて!」


「うん!」


その様子をメンフクロウは少し離れた所から見守った。


(彼女もまた...、アレなのね…)



レシピ通りに作る。

パスタを茹でてる内に、野菜とソーセージを切る。


ジューンに具材をフライパンに入れ、炒める様に指示する。


茹で上がったパスタを湯切りし、野菜と和える。


最後はツバサが炒め、ジューンがケチャップを取り出した。


“ケチャップは5秒間”


レシピにはそう書かれていた。


ジューンは左手、ツバサは右手で同じケチャップを握り5秒間...。


パスタとケチャップが混ざり合ったら...


「よし...!」


皿に盛り付け、完成した。





メンフクロウは、パスタを見つめる。

よくよく考えれば彼女はよく物を観察する。

クセなのか?


フォークを握るその手先は、意外にも不器用。人間で言う4,5歳の食べ方に似ている。


しかし、美意識が高いのか、慎重なのか。

音を極力立てずに口の中に運んだ。


「...、貴女達には脱帽ですね

懐かしい味を完璧にコピーしている」


「それは...、美味しいってことで?」


ツバサが少し不安そうな声で言った。


「もちろん。貴女達にはお礼をしなくてはならない」


彼女はそう言ってくれた。

3人は再び図書館へ戻った。


メンフクロウは図書館の奥へと私達を案内した。目の前には本棚があるが、メンフクロウが一冊の本を奥に押すと、なんと、扉になっており通路が出てきた。


「ついてきて」


そして辿り着いたのは4畳ほどの研究室みたいな所だった。


「まず、私自身について...、お話しますか」


彼女は私達をまた見つめた。


「私は、嘗ては人間の研究者だった」


その第一声に驚かずにはいられなかった。


「ええっ!?」


「ツバサちゃん驚いちゃ...」


「そうなるのも当然。

私自身過去の記憶が薄れ始めて来ている。

実際、どういった経緯でこの姿になったのか思い出せない。だけど、覚えてこともある。貴女達に作らせたナポリタンは私の彼が作ってくれたもの。記憶が去る前にもう一度口にしたかった」


「か、彼ぇ!?」


「ちょっと冷静になろ!」


ジューンに肩を叩かれる。


「私は人間の時、サンドスターについての研究を行っていた。動物を人に、無機物をセルリアンに変える」


ノートを持ちながら話す。


「それを人為的に生成できないか、

実験するために各分野から研究者が集められた。私もそのうちの一人」


一度咳ばらいし、話を続ける。


「クリホクはサンドスターの特別実験地区に指定された。時に、サンドスターによるフレンズ化現象が確認されていない水中生物をフレンズ化させたり実験をした」


「水族館があるこのちほーは実験にうってつけって訳か...」


ポツリとツバサが呟いた。


「そして、数年を掛け、人工的にサンドスターを生成できた。それがこれ」


瓶を棚から取り出して見せた。

オレンジ色の固形物体。


「我々はコレを“サンドスターα”と名付け、これでフレンズを人工的に生み出す実験が行われた。

しかし、このSSαには、欠点があった」


「もしかして...、異常個体を生み出す?」


ジューンが小さい声で言うと、彼女は頷いた。


「何かしらの障害、特殊能力を持った突然変異のフレンズ...、“α種”と呼ばれる者が誕生してしまった。これは我々にとっても誤算だった...。

パーク管理会社はこれを重く受け止めた。変なフレンズがクリホクちほー外に出れば問題になりかねない。だから隔離された」


「...」


色々な意味で“ひどい話だ”と、ツバサは思った。


「そんなことをしてしまった私達だけど、

パークにも貢献したことがある。

UMAや絶滅種の復活とかね」


「...ほかの研究員はどこに?」


「...わからない」


ツバサの問いに彼女は俯いた。


「メンフクロウは、実験とか言ってたけど何してるの?」


今度はジューンが尋ねた。


「論文を書いている。サンドスターのね

見てもいいわよ」


彼女は独特な指の差し方をした。

親指で方向を示す。


ツバサは机の上に置かれた分厚いA4の紙の山を見た。

最初は英語のプリントアウトされた物だが、途中から手書きになっている。

1番上、数字からして最近書かれたものは

日本語でひらがなが多く字も乱雑。小学校低学年が書いたかに思える。


「見ての通り、字を書く能力も衰え始めてる。英語も書けたのに。元々動物は文字を書かないから」


しかし、この枚数。ゆうに1000を超えている。

いかに彼女が研究に対して熱意を抱いているのかが伝わった。


「すごい...」


敬服に値するものだ。


「私は今でもサンドスターの研究を続けている。この手でまともな字が書けなくなる日が来るとしても絶対に論文を書き上げる...」


彼女は夢を口にした。


「ノーベル賞絶対貰えるよ」


私はメンフクロウに対してそう言った。

すると彼女も口元を緩めた。


「...長い話しちゃったね。

ツバサ、ジューン。貴女達はこれからどうしたい?」


「...やっぱり、クリホクが隔離されてるのはおかしいって私は思う。

外に出て、解放してもらう様に説得したい。α種だろうがなんだろうが、良い子ばかりだし、もちろん、能力のせいで怖い思いをしている子もいれば、他人の目を気にしていた子もいるけど...、その壁は崩せるよ」


ジューンの顔を見た。


「そう...。ツバサは外に出たい...。

そこの世界が夢でも、現実でも?」


また、奇妙な選択を押し付ける。

やはりクセが強い。


「...どっちでもいい。私は間違った事を

正したいだけ」


彼女は研究室に置いてある棚の引き出しから、地図を持ち出した。


「これが外へ行く道

図書館から先はセルリアンが多いから」


そう短く言い、手渡した。


「あ、ありがとうございます」


「それと、ジューン」


「はい...?」


いきなり指名され、きょとんとする。


「私達のせいでその体になってしまった事を謝るわ...」


「いえ、いいですよ、謝らなくて」


彼女はキッパリと言った。


「この体じゃなきゃ、ツバサちゃんとも

会えませんでした。今はとても幸せですよ」


「...ふふっ、それを聞いて安心した」


安堵の顔が彼女にも現れた。


「今度、ここに来ることがあったら

色々調べさせてね?ツバサ」


「んっと...、まあ、出来る事なら協力してもいいですけど...ね?」


アハハと、微笑した。



去り際、スクーターに乗り去ろうとした間際、彼女はこう言い残した。

「園長は...、このパークを再興した英雄

覚えといて」と。



2人は複雑な過去を持つメンフクロウの

図書館を後にした。




「ねぇ、ツバサちゃんは...、幸せ?」


「...、幸せだよ」


そう口では答えたものの、“幸福”とは何か。そんな些細な事が気になってしまった。












「お抹茶って初めて飲んだけど美味しい!このクッキーも!」


「ニホンオオカミさんがそう言って頂けて嬉しいです!」


「私も...」


「そういえば、ツバサさんとジューンさんご存知ですか?」


ウグイスは言った。


「え?ツバサとジューン?」


「私達の...恩人...」


「そうなんだ!じゃあこれの持ち主は...

ツバサ達かあ!」


「...?何ですの?それは」


「よくわからないけど、届けた方がいいんだって!急がなきゃ!ありがとう!

ウグイス!コマドリ!」


ニホンオオカミは2人に礼を述べ、足早に去って行った。


「...忙しないお方ですね」


「そう...だね...」

















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