第5話 にほんていえん
すいぞくかんを後にした二人はスクーターで図書館へ向けて移動していた。
しかし、その途中...
「あれ...?どうしたの?」
「デデデ...電池ガ...、切レ...」
「えっ...!?」
ということがあり、手で押しながら道を進んだ。
ジューンは押せないので、ツバサが押す。
「ごめんね...、なんか、任せっぱなしで...」
「大丈夫だって。気にしないで」
お互いに気遣いながら、進んでいた。
程なくして、目の前にアーチ状の看板が現れたので立ち止まった。
ツバサは上を見上げゆっくりと書かれている文字を読んだ。掠れてはいるが、辛うじて読める。
「世界の建築文化パビリオン...?」
読み上げたと同時に、スクーターにセッティングされたままのボスから、音声が流れた。
『万国博覧会をこの島で行うことが出来て光栄です。フレンズさん達も良い刺激になると思います』
非常に短い物であったが、それは水族館で映し出された赤服の少女の声、そのものだった。
「博覧会ってなに?」
ジューンが尋ねた。
確か、日本でも万博とか言う大きなイベントが何回か行われた。実際に行ったことは無いが。
「新しい技術を発表したり、
外国のモノを見せたりするイベントかな」
「それがクリホクでもやったんだね」
頷いて理解を示した。
「ここで充電できないかな...?」
「もしかしたら、フレンズがいるかも」
中に入って、最初に見つけたのが、
いかにも武家屋敷という感じの格調高い感じの外壁に囲われたところ。
【日本庭園→】
という看板が立てられている。
「行ってみようか」
ツバサの確認にジューンは小さく頷いた。
スクーターを押しながら、門をくぐると、
庭園の池を超えるための木の橋があった。
左右の景色を見ながら、橋を渡る。
綺麗に整備された庭は時の経過を感じさせなかった。松も立派に曲がっている。
橋を渡り終えると、赤い布がひかれたベンチに腰掛けるフレンズを見つけ、声を掛けた。
「こんにちは。あの、お尋ねしたい事があるのですが...」
ツバサが丁寧な挨拶をすると、嬉しそうにこちらへ近寄った。
「あら...!ようこそおいで下さりました。どうぞ、中にお上がりください。
案内致します!」
和服を着たフレンズが流暢に対応する。
まるで、旅館の女将みたいだ。
ジューンと共に屋敷の中に入った。
「ウグイスハ、特徴的ナ声デ鳴クンダ。
日本デハ、春ヲ知ラセル鳥トシテ、
古クカラ親シマレテイルヨ」
「あら、ボスって喋りますのね」
ふふっ、と上品に笑ってみせた。
綺麗に背筋を伸ばし正座するウグイスは
非常に礼儀正しい。
ジューンは難なく正座出来たが、ツバサは
足が痺れるのを警戒し、正座ではない。
二人は簡単に自己紹介をした後、本題を切り出した。
「充電ですか?多分、コチラにありますよ」
「コレダヨ、コレダヨ」
ウグイスが案内した所でボスがそう反応した。電池をはめ込み充電した。
「この線を抜くと、電気が使えなくなるんですよ。終わったら一服差し上げますね」
3人とボスは庭を見渡せるぬれ縁に座った。
「いつも、ウグイスは何してるの?」
ジューンはツバサの左側から顔を覗かせて尋ねた。
「庭を楽しんだり、俳句を詠んでみたり...、お茶立てたり...」
「和風だねぇ...」
ツバサが微笑した。
「良い住処を見つけられたのはとても良かったです...けど、1つ気がかりな事があるんですよね」
「なんだべ?気がかりな事って」
するとウグイスは立ち上がり、唐突に上空へと飛んだ。
「下からだと見えませんが、あっちに、
建物があるんです」
その方向を指で示した。
「それが?」
再びゆっくりと地上に戻る。
「実は、時折変な声が聞こえるんですよ
悲鳴の様な...」
「んー...、何かありそう」
ツバサが腕を組んで天を仰いだ。
「あの...、お客様にこんな事をお願いして御無礼をお許しください…。ご迷惑で無ければ、本当、宜しければでいいんです。
一体あそこに何があるのか、確かめて下さりませんか?私は、ちょっと怖くて...」
丁寧にお願いされるとこちらも断りにくい。
ジューンと顔を見合わせてから、
「わかった」
とウグイスに告げた。
一度日本庭園を出てから、あの方向を目指した。
「何だろう...、悲鳴って...」
ジューンも心做しか、不安がっているのか。
「うーん、フレンズじゃない」
「...ツバサちゃんは怖くないの?」
「え?」
「あの...、オバケとか...」
「いや全然」
素っ気なく返答した。
「小さい頃から怖い話とかされてきたし...、もう慣れちゃったね」
「な、慣れた...」
ジューンはその言葉が信じられなかった。
再び看板があり、
【ブリティッシュガーデン→】
と書かれていた。
あのウグイスの日本庭園とは違い、
綺麗なバラの生垣が周囲を囲っていた。
「ココノ剪定モ、ボクタチノ仕事ナンダヨ」
ボスの自分語りを無視し、庭の入口を見つけ奥へと進んだ。
「すごい...」
「わぁ...」
二人の目を驚かせたのは、噴水と色とりどりのバラの花。
奥には西洋風の白色のお屋敷がひっそり佇んでいる。
「誰かいないー?」
そう言いながら、奥へと進むが人影は無い。
そうこうしてるうちに屋敷の玄関に辿り着いた。
「開ける...?」
ジューンが後ろから尋ねる。
「そりゃあ...、ここまで来たし」
ドアノブに手を掛け、開けた。
中に入ると、広いエントランス。
絵に描いたようなお金持ちが住んでそうな印象だった。
しかし、どこか薄暗い。
「あのー...、どなたかいらっしゃいますかー?」
すると、何処かの扉の開く音がした。
遠目でその姿を見た。
灰色の長めの髪、前髪がオレンジで羽のようなものが見える。
ウェイターに似た格好した小柄なフレンズ。
しかし、彼女は二人を見た瞬間、表情を引き攣らせた。
「きゃああああっ!!!」
「!?」
「えっ!?」
ウグイスの言ってた悲鳴とは、これのことかと理解したのもつかの間、思いがけない出来事が起きる。
「あ、あれ?ジューン、なんか色が変じゃない?」
「え?色?言われてみれば…」
何かおかしい。今自分たちが見ているこの光景、すこし薄暗い程度だったのに、
彼女が悲鳴を上げた瞬間、真夜中の様に暗くなった。
「い、いやぁ!」
彼女が怯えたように部屋に戻って行く。
「あっ、待って!行くよ!」
ツバサはジューンの手を取り、
暗闇で微かにしか認識出来ない階段を登って、彼女の逃げ込んだ部屋の前に立った。
「大丈夫だよ、安心して!何もしないから!」
「うん、わ、私フレンズだよ!」
扉越しに呼びかけ応答を待った。
しかし、返事が無い。
「...開けていい?入るよ?」
ツバサはそう言い、扉を開けた。
すると、視界は元通りに戻った。
部屋の中にはベッドが1つ置いてある。
先程見かけた少女は毛布に包まり、ひどく狼狽していた。
ハァー...ハァー...と息を乱している。
ただならぬ様子に困惑していると、
ジューンが声を掛けた。
「突然来てゴメンね。私ジェンツーペンギンのジューン。
あなたと同じフレンズ...」
宥めるように言った。
「フレ...ンズ...」
か細い声で彼女は答えた。
「あっちがツバサちゃん。私の友達」
「ともだち...」
「ヨーロッパコマドリダネ。
ソノ名ノ通リ、ヨーロッパニ多ク分布シテイルヨ。イギリスデハ、国民ニ馴染ミ深イ鳥トサレテルヨ」
「ボス...」
彼女はやっと落ち着きを取り戻した様だった。
「あの、コマドリさん、一体、どうしたの...?」
ツバサが恐る恐る尋ねた。
「ごめんなさい...。こ、怖かったから...」
小さな声で言った。
「...、もしかして」
ジューンがそう口にした時だった。
「個体異常確認...、クリホクIR-1458機ヨリ、セントラルメインセンター...、応答セヨ...、応答セヨ...、信号ヲ、受信デキマセン...」
「ボス...?」
突然の事に、ツバサも困惑した。
「私と同じだね」
ジューンが優しく言った。
「え...」
「私、右腕がないの」
コマドリに形が有るようで無い右腕見せた。
「おかしいのは、わたしだけじゃないんだ...」
「アナタは...」
「わたし、色が見えない...、
白と黒しか...、わからない」
(色盲...)
ツバサはその話を聞き、単語を思い出した。だが、その言葉が正しいのか疑問に思った。
「それって、どういう風に見えるのかな?」
失礼だと思いつつもツバサは踏み込んで尋ねた。
「明るい所は、白黒...、暗いところは真っ黒...。怖いから、いつもここに閉じこもってる...。お花の色も空の色もわからない...」
彼女の言いたい事はようやく理解出来た。
彼女もまた、何時ぞやのクラゲが言ってた、IF(イレギュラーフレンズ)なのだ。
それなら、視界がおかしくなった理由も、
辻褄が合う。特殊能力的なやつだ。
(というか...、ウグイスになんて説明したらいいんだろう...)
「あっ、コマドリ。ちょっといいかな」
彼女は毛布に包まったまま顔を見上げた。
「...?」
「会わせたいフレンズがいるんだけど...」
あっ、という表情をジューンは見せた。
立ち上がり、ツバサの耳元で囁いた。
「あの2人を合わせるの...?」
「ウグイスを連れてくるかコマドリを
引っ張ってくるかなら、私は後者の方がいいと思ってさ…」
「...でも、怖がって引きこもってるんだよ?」
「だからこそだよ。慣れさせる」
「え?」
ジューンはツバサのことは信頼しているが、やる事が時々大胆なので、不安が払拭出来なかった。
思った通り、“外に出よう”とツバサは大胆に誘った。
“えっ...、ええっ...”とオドオドしながら
コマドリは困り顔を見せつつも、とりあえずは抵抗しなかった。
外に出た。明るい太陽がてっぺんに昇っている。この景色もコマドリにとっては、
白黒の、一昔前のモノクロテレビの様な映像で見えているのだ。
「...どう?」
ジューンが心配そうに尋ねた。
「外には...、偶に出てますけど...
あの...、会わせたいフレンズって...」
「まあ、とりあえず安心して私に付いてきてよ」
彼女の不安を払拭するような明るい笑顔をツバサは浮かべた。
ゆっくりとした足取りで、日本庭園に戻った。
ウグイスは屋敷の玄関前で不安そうな顔をして待っていた。
「あっ...、ツバサさん、ジューンさん...」
「ウグイスさん、ちょっといい?」
ツバサは、ウグイスに事情を説明した。
もちろん、コマドリの特殊能力の事も。
彼女は特異な事に対し失礼な態度を取らないと判断したからだ。
「...でも、お隣に同じ鳥のフレンズが
いたなんて驚きました」
そう言うと、コマドリは気恥しそうに
“あはは...”と声を漏らした。
「コマドリさん、
私とお友達になってくださりますか?」
「わ、私と...」
「あなたのお屋敷にも行ってみたいです。
それに...、困った事あったら、お手伝いさせて頂きたいですし」
「...わ、わ、う、うれしいです...」
目元を手で拭う仕草をした。
近かったけど、一歩庭より先に踏み出す勇気がなかった彼女にとってはとても感無量の出来事だった。
「じゃあ、お祝いにお茶を差し上げます!」
充電も終わり、ウグイスはお抹茶をツバサ達に振舞った。
ツバサが手伝いジューンも飲んだ。
「2人が居なかったら...、
一生引きこもってたかも...」
コマドリは内気な性格なのか、終始モジモジしていた。
(けど、大胆にやってあっさり成功するなんて...。
ツバサちゃんも何かの能力を...)
ジューンは心中で思った。
「まあまあ、2人が仲良くなったみたいで良かったよ、じゃあ私達は図書館に行くから」
そう言って、別れた。
「お気を付けて」
「ありがとう...」
「私達もあの2人みたいに助け合える関係になれるといいですね!」
コマドリに向かい、ウグイスはそう語った。
「...」
「あ、色のこと、教えてさしあげます!」
“すいぞくかん”にて
「ニホンオオカミ...」
「君は何かを探してる...」
アカクラゲとミズクラゲが浮遊しながら言った。
「名前言ってないのにわかるなんてすごいなぁ!あっ、そうだ。これを拾ったの!」
「...」
「...」
2匹のクラゲはニホンオオカミが見せつけたソレを凝視した。
「これ、何だと思う?」
「大事なカギ...」
「早めに持ってった方がいい...」
「え、誰に?」
「人間と」
「片腕のないペンギン」
そして、アカクラゲは彼女に近づき、手を出した。
「後、電源は切っといた方がいい。
貸して...」
「あ、そう?」
慣れた手つきで操作しニホンオオカミに返した。
「彼女たちは図書館に向かってる」
「それを頑張って届けて」
「わかった!ありがとう!」
敬礼のポーズをしてニホンオオカミは去って行った。
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