第4話 すいぞくかん

スクーターに乗り湿原を抜ける。

すると、コンクリートの舗装された道に出て来た。


「モウスグ、水族館ニ着クヨ」


ボスの声に私はハッとした。


「水族館!という事は、ペンギンとか、イルカとか?」


「ソウダネ」


機械音声でそう答えた。


「ペンギン...」


私の後ろのジューンがそう呟いた。


「もしかしたら・・・、仲間がいるかもね」


その問に、ジューンは沈黙してしまった。

聞いちゃ・・・、まずかったかな。






「気配感じる」


「感じる」


「変な奴と」


「変な奴・・・」





私達は水族館に辿り着いたが、目を疑った。


「・・・ここ?廃墟じゃん」


窓ガラスが全て割られ、家具が散乱している。

一瞬で強盗か、嵐に襲われたような感じだ。


「来たことある?」


「私は知らないかな」


ボソッと呟いた。


すると、ボスが突然・・・



「あれ?ボス?」


私達の目の前に、モニター画面が映し出された。

本能的に、ジューンと寄り添う。


『映ってますか?...ザザッ...、ラッキーさん。

クリホクエリアの水族館の復旧は順調です...ザッ...

イルカショーとか、大きな水槽をメインに、お客さんに

楽しんでもらえたらなって思ってます。ジャパリパークを

再び再興させる為に、尽力してきたかいがありました。

もうすぐショーの時間ですね。初めてのショー...、お客さんの反応が

楽しみです!』


1分程の映像。

赤い服を着た黒髪の少女が映し出され、楽しそうに話していた。


「あれ・・・、誰?」


「うーん?」


ジューンも頭を傾げた。


「なんかないか、先進んでみようか」


「あ、うん」




まだ日中なのに、夜だと見間違えるくらい室内は光が差し込まず暗い。

時折、破片類が行く手を阻む。


「ほんとに廃墟だねー・・・、誰かいないかなー」


「さっきからなんか・・・、いる気がするんだよね」


「え?」


立ち止まり、ジューンの顔を見た。


「後ろの方から・・・」


「後?」


恐る恐る後ろを振り返る。

徐々に目線を上げてくと・・・




「どうも」


「どうも」




「うわああああッ!!!」


「ツ、ツバサちゃん!?」







「わたしはアカクラゲ」

「ぼくはミズクラゲ」


二人は重力を無視して、浮かぶ。

一体どんな作りになっているのだろうか、

疑問ばかりである。


二人とも髪が長く、パジャマの様な服を着ている。

違いと言えば、赤いか青いかぐらいだ。



「あれ?そう言えばあなた達もフレンズなんだよね。

そしたら、ボスが反応するはずじゃない?」


ジューンが尋ねた。



「わたしたち、データがない」

「ぼくたち、フレンズになる存在じゃない」


意味不明な事を口にする。

個性が強すぎる。



「ハァ...、アンタら人を脅かしといて...

意味不明なこと言って、頭大丈夫?

ってか、クラゲなら頭は無いか・・・」



少しムッとしたように私を見た。

何かマズい事でも言ったのか。



「わたしたちはなんでも知っている」

「ぼくたちはなんでも知っている」



「ウソでしょ...。

じゃあ、私がどうやってここに来たか言える?」


そう尋ねると、二人は、目を閉じ共に手を繋ぎ、

くるくると円を描く様に回った。



「飛行機が墜落した」

「気が付いたらここにいた」



「はぇー・・・」


息をのみ、驚愕した。

初対面で、何も言ってないのに。



「なんでそんなことわかるの?」



「イレギュラーフレンズだから」

「ぼくたちは、イレギュラー」



「イレギュラー・・・?」


また私は顔を顰めた。



「クリホクエリアは異常個体が発生しやすい。IRZだから」

「Irregular-Zone、その略・・・」



「IRZ...」


ジューンが小さく呟いた。



「クリホクは封鎖された。異常個体が多すぎたから」

「ヒトはもう、このクリホクには近づかない」


「あなたも、イレギュラーフレンズ」


アカクラゲは、唐突に顔をジューンへと近づける。


「・・・・」


「この謎はわからない。なんでクリホクだけに

IRが多いのか・・・」


ミズクラゲは口惜しそうに言った。


「ところで、特殊能力者ってことでいいのかな、二人は」


「そんな様な“モノ”であり」

「そんな様な“モノ”じゃない」


アカミズコンビは、私の問いに曖昧な返事をした。


「ハッキリ断定してよ・・・」


「そうだ。ツバサ、ジューン、良いことを教える」

「取引しよう」


唐突に、二人はそう持ち掛けた。

優柔不断さはクラゲ譲りか・・・。


「いや、待って、そう言えば私たち名乗ってないのに

何で知ってんの?」


「私は心の中の声が聞こえる」

「僕は過去を見る事ができる」


「やっぱり特殊能力者じゃん・・・」


呆れて笑った。


「アカクラゲさん、ミズクラゲさん。

あの、能力について知ってる事教えてくれませんか?」


意外にもこの話に食い付いたのはジューン。

私は心中で“えっ”と声を漏らした。


「イレギュラーフレンズが特殊能力を持っているパターンが多い」

「持ってない子もいるし、自分がイレギュラーじゃないと思い込んでる子もいる」


「私は・・・、イレギュラーなの?」


その質問に私は目を丸くする。

二人は、悠遊と、空中を飛ぶ。

目を疑う光景ばかりだ。


「片腕が無いというのは、イレギュラーかもしれない」

「君は生まれた時から、そうだった」


過去が見えるというミズクラゲはうんうんと肯く。


「けれど、能力があるかどうかは知らない」

「能力があるかもしれないけど、ないかもしれない」


「そうなんだ・・・」


彼女は少し目線を落とした。


「あっ、そうそう、アンタたち取引って何を取引するの?」


「この部屋を掃除して」

「綺麗にしてほしい」


「掃除してくれたら、

あなたの帰り方、赤い服の女の子のことと、私達の友達を紹介する」


まさに私が心の中で知りたいと思っていた事を

アカクラゲはズバリ的中させた。


しかし、ひとつ問題点がある。


「掃除って・・・、この瓦礫の山を!?」


「あなたたちなら出来る。私の未来が、そうだから」

「僕は出来ると思う。信じてる」


仕方ない・・・。情報を得るためだ。


「ジューン...、やるよ」


「は、はぁ・・・」





じゅかいちほーにて。


「ねぇねぇ、ここ誰か通らなかった?」


「うーん、ビンタしてった子がいるねぇー」


「出口まで案内したよ!」



しつげん


「えーっと...、スクーターを見つけて、向こうに行きましたよ」


「そうなんだ!ありがとう!」






何時間経っただろう。


「ハァ...」


大きなため息をついて、階段に座った。

ジューンは出来ることが少なく、ほとんどは私がやった。

中三の女子中学生には重労働だった。


「言った通り」

「予想的中...」



「こんだけやれば満足でしょ・・・。ちゃんと教えてよね」


呑気に浮遊するクラゲたちを見上げながら言った。


「赤い服の女の子...、このパークのヒーロー」

「英雄であり、リーダー」


ヒーロー、英雄というワードで、なにか偉大なことをした人物なのだろうかと

想像する。


「再びヒトを呼び寄せた。しかし、クリホクは封鎖された」

「彼女は、ここを危険と判断した」


「ヒーローなのに・・・、ここを隔離した?」


ジューンが不思議そうに言ったので、


「なにかワケありなんでしょ?」


と言った。

と同時に、封鎖されて人が立ち入れない状況なのならば、

オオサンショウウオたちが絶滅したと勘違いしてもおかしくはない。


「ヒトはいるんだね?」


確認のため再度尋ねた。


「うん」

「クリホクの外にいる」


クリホクが隔離されてしまった理由が気になった。

イレギュラーフレンズが関係しているのか。

だが、今は聞くべきことではないだろう。


「詳しいことは、図書館に行けばわかる」


ミズクラゲが言った。


「私たちの、友達、メンフクロウ」

「だけど、彼女はクセが強い」


「なるほどね。

詳しいことはこの先の図書館で聞けって話なんだね。

アンタ達も知らないことあるんだ」


「知らないこと、ないわけじゃない」

「宇宙と交信してるから」


唐突にわけのわからないことを口にした。

いや、元からわけがわからない。


「一杯情報を入れられない」

「情報は一日で消える。体力を使う」


「だから、こうして・・・」

「眠くなるんだ・・・」


二人は唐突に地面に落ちた。


「...!?二人とも!?」


慌てて駆け寄ると、本当に寝ていた。


「ちょ...、まだ帰り方聞いてないのに・・・」


「仕方ないよ...。意外と体力使ってたんだよ」


慰める様にジューンが言った。


「図書館で聞けばいいと思うな」


「うん...。あの二人あのままでいいかな?」


「大丈夫...、じゃないかな」


二人はぐっすり眠る、クラゲ達を横目に、水族館を後にした。


このクリホクには、とてつもない大きな謎がある。

それを個人的に解き明かしたかった。


クリホクを出れば、誰かに助けてもらえるかもしれない。

その選択肢もあったが、私は前者を取ることにした。


理由は紛れもない、ジューンの存在。




まだ...、帰りたくはない。







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