第1話 ともだち
私は浜辺で目を覚ました。
良かった...。生きてる。
修学旅行の飛行機が墜落するなんて、アニメや漫画の世界だけの話だと思ったけど...。まさか、現実になるなんて...。
思いもしなかった。
ここは何処だろう。
青い空が私の目に飛び込む。
ベタな展開なら、無人島とかか...。
「大丈夫?」
人の声?
良かった。乗客だろうか?
ん...?
「だれ...?」
髪の長い...、まるで、私みたいな女の子...。
けれど、何かが...。
右腕が...、無い?
意識がぼんやりしていた。
ヤシの木の日陰に私はいつの間にかいた。
自分で動いた記憶はない。
「あっ...、大丈夫?」
「...うん」
横を見た。
彼女は、私に声を掛けてくれた...
「ここはどこ...?」
「ジャパリパークのクリホクエリア」
(パーク...クリホク...?)
「あなたは...?」
「ジェンツーペンギンのフレンズ」
(ペンギン...)
「・・・あなたは?」
彼女は聞き返した。
「私は...、村山ツバサ...」
「どうしてここに来たの?」
「飛行機が...、落ちるって言って...」
「・・・」
何故か黙った。
まあ、誰もいないよりマシだ。
「あの、喉が渇いた...。水ない...?」
誰だか知らない彼女に要求した。
「水...、待ってて」
サッと立ち上がり、どこかへ行った。
その後ろ姿。印象に残ったのは、
やはり、右腕がない。
そこから、色々なことを考えた。
もしかして、ケガをしたのか?
それとも、誰かに食べられた?
なにかの病気...?
けど、全くわからなかった。
そもそも、何でペンギンが人の姿に...
夢でも見ているのか...?
もしや、死んだ後の世界だったりして。
無意識に考えた。
けど、何一つ答えに結びつかなかった。
ボーッと風に揺れるヤシの葉を見つめていると、
「お水...」
彼女はそうして左手を出した。
水滴が付いているのがわかる。
無いに等しい、そんな水。
喉が潤うとも思えない。
私が困惑したまま、その手を眺めていると、
「...ごめんね」
急に謝りはじめた。
「お水...、すくえない...」
その声は震動していた。
寒さに凍える者の様に。
「こんなカラダじゃ...なきゃ...」
彼女の顔に涙が浮かんだ。
「...ありがとね」
引っ込めようとしたその手を私は掴んだ。
その僅かな、水滴を。
私は求めた。
一生懸命、やってくれた、
精一杯の頑張りを。
片手の水気を、舌で吟味した。
喉の乾きが治る程のものでは無い。
だけど、だけど。
私にとっては、有難いモノだ。
「...ありがとう」
そう告げて、顔を見上げると、彼女は
ぐすっ...ぐすっ...と、涙を流していた。
余程、彼女にとって私の行為は嬉しかったのだと、察した。
「...この水は何処から持ってきたの?教えてくれない?」
立ち上がり、スカートの裾を軽く叩いた。
「うん...、来て...」
彼女の後を付いて行くと、小さな泉があった。
地の底から水が湧き出ている。
私は両手を水につけて救い、飲んだ。
ふと、思い付いた。後ろを振り向き、
「アナタも飲んだら?」
と、両手に汲んだ水を彼女に向けた。
「...」
彼女は口を近付けて水を飲んだ。
前に飼ってたペットにこんなふうに水をあげた記憶を思い出した。
「...ありがとう」
少し顔を赤らめて、礼を述べた。
「私を助けてくれたお礼だよ...。
ところでさ、色々聞きたいことがあるんだけど...」
「私に...答えられるなら...」
コクリと頷いてみせた。
「その...、右腕のこと...知りたいな。
答えたくなかったらいいよ!」
「あっ...」
彼女は意図的に沈黙を置いた。
「えっと...、フレンズになった時から
こうだった...。何でこうなったのかわからない。
みんなと違うから、避けられるというか、変な目で見られるというか...」
小学校の頃を思い出した。
山形から引っ越してきて、
言葉の発音が少し独特だった私は、幼心の者達にとっては異質な存在だった。
好奇の目に晒され、プライドが高かった私は、よく反発したものだ。
彼女の気持ちはわからなくもない。
ちょっと彼女の顔が快くなさそうだったので、質問を変えた。
「じゃあ、好きな物とか...」
「...音楽」
「音楽?」
「歌とか...、踊りとか。
遠くのエリアにぺパプっていうアイドルがいるんだ...。その音楽がすき。
聞いたことは無いけど...」
「へぇ...」
アイドルのようなカルチャーがここに流入してきている事に感心した。
思ったよりもここは、結構文明が発達しているのだろう。
「いつか会いたいなぁ...」
おっとりとした口調で夢を語った。
こういう所に人間味を感じた。
「そう言えば、アナタは何のフレンズなの?」
「フレンズ...」
そう言えば、彼女はジェンツーペンギンのフレンズと言っていた。
「フレンズってなに?」
今まで失念していた疑問を口にすると、
彼女はキョトンとしていた。
「えっ...、アナタ、フレンズじゃないの?」
「いや...、人間だけど?」
「ええっ!?」
「何でそんなに驚くの...」
左手で口元を抑え、驚きを顕にした。
「だ、だって...、ヒトはいないって
聞いたから...」
「えぇ?」
私も彼女も困惑した。
「あっ...、ねぇ...
私、飛行機から墜落したって言ったっけ?」
「どうだっけ...?」
「ここが...そのなんとかパークで人がいないんならさ...、一緒に人探してくれない?」
「わ、私と?」
「うん...、だって、ここ詳しいの
アナタしかいないし」
そう言うと困った顔を見せた。
右の袖を左手で抑える。
「で、でも...、
私、他の子と違うし...」
「その腕?」
彼女は小さく頷いた。
他の子と違うしという台詞が私の小学生の時の苦い思い出を掘り起こさせた。
プライドが高かった私は、馬鹿にする者に反抗した。
「だから?他の子と違うからって、それを認めたままでいるの?」
「えっ...?」
「出来ない事はない...。
私も昔は色んな子に変な風に見られてたんだよ。だけど、私は“何で皆同じじゃなきゃいけないんだ”って」
「・・・」
呆然としたまま、私の話を聞き入っていた。
「わしはわし、他人の事ば気にしつたっけら、好きなこと出来るわけねえず。
...ってね」
私の心に深く刻まれている言葉を口にした。
「執拗い程言われてね...、
もうやめたんだ。
他人の目を気にするの」
時が流れるにつれ、
自然にイントネーションは標準へと変わって行った。今は時折、訛りが出る程度だ。
本題を私は彼女に告げた。
「右腕の代わり、私がするから、
アナタは私を案内するでどう?」
「・・・私と友達?」
「...友達だね」
また、彼女の目が潤んだ。
「友達、はじめて...」
「友達なら、私の事、ツバサって呼んで」
「うん...、ツバサ...ちゃん!」
その潤んだ瞳の中に一筋の光が浮かんだ。
「そうだね、アナタの事なんて呼ぼうか…」
頭を捻らせ、考える。
ジェンツーペンギン...
ジェンツー...、今月はたしか6月...
「...じゃあ、私はジューンちゃんって、呼ぼっかな。
よろしく。ジューンちゃん」
「あ、うん...!ツバサちゃん!」
右腕の無いジェンツーペンギンのフレンズと、飛行機が墜落し、孤独になった少女との旅が今、こうして幕を開けたのであった。
「先ずはどこを目指せば...、手掛かりとかあるかな」
「図書館にいけば...、あるかも」
「道わかる...?」
「...あまり知らないんだ。ここら辺のことしか...」
ジューンが自信なさげに答えた。
「...、まあ何とかなるよ!」
私はそう言い、歩き始めた。
その後を彼女は付いてきた。
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