第60話

クイズ大会から数日、浩二は加奈子と旅行に行く予定を立てていた。今回頑張ったことへのご褒美だ。大会が終わってすぐ、放送を見ていた家族や先輩からお祝いのメッセージが来ていた。

浩二は非常に心踊る思いだった。思えばこんなイベントがあったのは久しぶりだ。今まで仕事し始めてから何が特別なイベントというのはなかった。普通に仕事に行き、普通に生活を送っていた。非日常といえばたまにいく遊園地くらいのもので、他には何もなかった。何もない日常というのはなかなかにつまらないものでそこに、クイズ大会という全く新しいスパイスが加わることは人生を彩る絵の具のようだった。事実、クイズ大会の練習をしていた時間はいつもとは違ってとても楽しかったし、大会当日などは高揚感で体がふわふわと感じられたくらいだ。決してクイズフリークというわけではなかったが、それでも自分の能力を活かして何か新しいことをするというのは真新しい経験だった。本当にやってよかった、と思う。自分の力を試して挑戦することがこんなに楽しいことだとは思わなかった。


「旅行どこ行こうか」

「私沖縄がいいな!」

「いいね、それで調べてみよう」


二人で旅行の計画を練る。旅行というのは行っている時も楽しいが、計画を練っている時が一番楽しいと思う。あそこに行こう、何を食べよう、だなんて色々と調べて考えるのはとても興奮することだ。


頭で様々な沖縄の情報を検索し、選りすぐりの記事をスマホに表示して加奈子に見せる。

と、画面に着信がかかってきた。見たことある番号だ。しかし何故?と思いながら浩二は電話を取った。


「はい、海野です」

「あ、海野さんですか。夏川です」


やはり相手は俳優の夏川健人だった。スマホを落としたあの日以来のはずなのによく覚えていたものだ、と感心する。


「どうしたんですか?夏川さんが俺なんかに電話なんて」

「いや、あれからやっぱりお礼がしたいと考えていたんですけど、たまたま動画配信の生放送で海野さんを見まして」

「見てたんですか?」

「はい。優勝おめでとうございます!クイズの才能があったんですね、驚きました」

「ありがとうございます。たまたまです」

「それで思い出したんです。番組のプロデューサーがクイズ番組の出演者を探してるって」

「それを俺に?」

「はい、そうです!あのクイズ大会実は結構難しくて注目度が高いものだったんです。その優勝者となればクイズ番組の出演者として十分なんじゃないかって思って」

「俺が、クイズ番組に?」

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