第59話

次の問題で運命が決まる。問題が読まれるまでの沈黙が長い間に感じた。浩二の頭に今までの練習がフラッシュバックする。加奈子と一緒に一生懸命やってきた。勿論ここにいる者は皆それぞれに練習してきただろうが、浩二は浩二で自分の技術を磨く練習をしてきたのだ。脳内での検索、展開能力には自信があった。誰にも負けない能力を持っているはずだ。どんな知識の持ち主でもインターネットの情報量には勝てないはずだ。どんなに頭の回転が速くてもパソコンの処理速度には敵わないはずだ。最強の能力を持っているのだ。集中してしっかりと能力を使い切れば敵なしに違いない。浩二は手にかいた汗を握りしめ、ボタンに手を添えた。

次の問題が読まれる。司会者の息遣いが聞こえた。

「問題!この式の答えはどれ?」


貰った!と思った。即座に画面に出てきた数式をインプットし計算する。コンマ何秒かの出来事だった。四択が出た瞬間にボタンを押す。

ピンポン、と鳴ったのは浩二の札だった。


「a!」

「正解です!おめでとうございます!10問達成です!よって優勝は海野さん!」


パパーンと軽やかな音楽が流れる。それと同時に拍手が巻き起こった。加奈子の方をちらりと見る。加奈子は立ち上がって嬉しそうに笑顔で拍手をしていた。

やった!ついにやった!浩二は心が踊った。

頭の中でひらひらと紙吹雪が舞うイメージが浮かぶ。嬉しさのあまり立ち上がると、周囲に何度も礼をして笑顔を振りまいた。


「さぁ海野さん、前の方へどうぞ」


司会に促されるまま解答席の正面まで降りて立つ。すると奥からトロフィーと賞金の値段の書かれたパネルが運ばれてきて手渡された。トロフィーがずっしりと重い。後ろからおめでとう、と言う声がいくつか聞こえた。ライバルだった他の解答者も祝ってくれている。


「いやぁ素晴らしい戦いぶりでした。今日のご感想はいかがですか?」

「一生懸命やりました。なんとか勝つことが出来て嬉しいです!」

「本当におめでとうございます!賞金はどのように使うおつもりですか?」

「そうですね、今日のために練習に付き合ってくれた彼女と旅行にでも行ってきたいと思います」

「それは素晴らしい。是非楽しんで行ってください。それでは本日のクイズ大会、優勝者は海野さんでした」


ぱちぱちと拍手が響き渡る。エンディングの音楽が流れ、浩二はトロフィーを掲げながら再度一礼をした。

こんなに嬉しいことは最近なかった。ここ一番の出来事だ。帰ったら加奈子と祝杯をあげよう。そう決めて浩二は走り寄ってきた加奈子に笑いかけるのだった。

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