第23話

「どれにしてもなんか小銭が稼げるくらいな気がしますね」


そうだねぇー、と深いため息が3人の間に沈む。


「もっと一攫千金な稼ぎ方ないのかなぁ?」

「あったらロマンがありますよね」

「未来が分かる能力とかがあったらいいのに」

「未来が分かる能力があったら競馬で当てまくるよ」

「いいですね〜競馬で一攫千金」

「未来が分かったら宝くじとかもいけちゃいますよね」

「アメリカンドリームだなそりゃ」


悠人はありもしないたられば話に胸を膨らませていた。こうなることがわかっていれば、もっと金になる能力を望んでいたのに、と思う。しかし願いなんて叶うかどうか分からないから願うものなのだ。何も言わずとも勝手に与えられる施しとは違う。能力を持ちながら役に立たないことに歯痒い思いを感じた。


「特殊な能力持ってても案外使えないもんですね」


悠人は苦笑いをする。それは稼ぐことを諦めたような笑いだった。しかしそれに海野は少し眉を寄せた。


「そんな言い方はないよ。便利なのに違いはないんだから。もっと有り難みを感じるべきだ」

「確かに便利と言えば便利ですけど」

「こんな稀有な能力他にないんだよ?ありがたく思って楽しく使わなきゃ損だよ損」


海野は自分の発言にうんうんと頷きながら、机にあったコーヒーを飲み干した。山岸は顎を抑えて考え込んでいる。悠人はこれ以上自分の能力を活かすやり方を考えあぐねていた。


「あ、ちょっとスプーン取ってくれる?」

「あ、はい」


悠人は海野に言われてスプーンを手渡す。その時、手と手が触れた、瞬間だった。


全身の血管を熱いエナジーが駆け巡った。血液が沸騰するような鋭い感覚、そしてそれが体中を支配する。どくんどくんと胸が血液を送り出す音が耳元で聞こえた。大きな高波に飲み込まれる時のような、巨大な影が体を襲う。それは熱くもあり冷たくもあった。

強い炭酸の海に包まれたようだった。ぱちぱちと肉体の中で何かが弾けていく。


悠人の頭の中では情報が渦のように激しく渦巻いていた。ざわざわとうるさい声がする。

これはもう慣れた体験だ。しかしそれ以上に頭の中には沢山のイメージが浮かんでいた。写真をパラパラ漫画のように無数にめくられて見せられているような感覚。意識に関係なく雪崩れ込んでくる音と映像。これは悠人の能力ではなかった。やがてそのイメージがただの写真ではなくインターネットのものであることに気づく。インターネット、と聞いて悠人はハッとした。そして目の前の海野を見る。



「音が…なんだこれ」


海野は驚いたような顔をして頭を抑えていた。ぱっと手を離し、スプーンが支えを失って机にカタリと落ちる。瞬間、頭に無数に沸いていたイメージがぶつりと切れる。


「大丈夫ですか?」

どうしたんですか2人とも、と山岸が横から心配そうに見た。悠人と海野はゆっくりと顔を見合わせて確信する。


「山岸くんちょっと手出してみて」

「は?はぁ」


山岸は訳がわからないまま首を傾げて手を差し出した。それを海野がちょんと触る。


「えっ何これ…。頭になんか映像が。え?これ?もしかして?」

「そうだと思う」


悠人は山岸の手にそっと触れた。


「今度は声が聞こえる!まさかそんなことがあるなんて!」


3人は確信した。手を触れると互いの能力を体験出来ることを。

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