第21話
「山岸くんはこの辺詳しいの?ファミレスの場所知ってるみたいだけど」
「あぁ、はい。隣町に住んでるんで結構詳しいです」
「地元民なんだね?高校生?」
「そうです、高2です」
山岸は頭をかいてへらりと笑った。小動物のような愛嬌のある顔をしている。高校生にしては礼儀正しく敬語は一切崩れなかった。この中で一番年少だということをしっかり理解しての行動に見えた。痩せ型で背の高い彼は少し猫背で悠人たちを見て話していた。ふんわりとした前髪が目にかかっている。きっと彼のようなタイプがイケメンと言われるのだろう、と悠人は思った。
「坂下さんは大学生ですか?」
「ああ、そうです。大学生2年生で、東京住みです」
「結構遠くから来たんだね〜こんな不確かな状況の待ち合わせに。まぁそういう俺も名古屋からはるばる来たけどね」
東京には負けるけど、と海野は笑った。そして、あと俺は33歳ね、2人より随分年上だ、と言った。それは年上であることを喜んでいるような言い方だった。
ファミレスに着き、席に座って落ち着いた所で海野が、さてと、と手を叩いた。
「坂下くんは人の心が読めるっていうけど、本当なのか試して良いかな?」
「いいですよ、何でもいいので心の中で思い浮かべてくれればそれを当てます」
悠人は眼鏡を外し、海野に意識を集中させた。じっと彼の顔を見つめ、ほかの意識に邪魔されないように強く心を込める。
ーAKEのCD初回盤欲しいなぁ。
頭の中で思念がざわめく木々のように、囁く小鳥のさえずりのように染み入ってくる。
「AKEのCD初回盤欲しいなぁ。ですか?」
「おぉ!凄い!凄いね!」
海野はさも嬉しそうに笑い、手を叩いて喜んだ。小さな子供のように顔に満面の笑みをたたえ、とても楽しそうだ。人に心を知られることを気持ち悪く思わないのだろうか、と悠人が心配になるほどの喜びようだった。
「山岸さんの聖徳太子的能力はどんな感じなんですか?」
悠人の問いに山岸は、それなら今すぐ見せられますよ、と言い周囲を見渡してからしばらく押し黙った。ふぅ、と深く息を吐き、深呼吸をする。一拍置いてから、山岸は口を開いた。
「あそこのテーブルは彼氏の浮気について、あっちのテーブルは子供の教育について、そこの老人のテーブルは税金が高いことについて不満を言ってます」
「同時に聞こえてるの?」
「そうですね、僕は同時に喋れないんでなかなか証明は難しいですけど、聞こえる範囲の会話なら全部同時に聞き取れます。あ、そこのテーブルがオーダー取りますよ」
山岸が言ったしばらく後には実際に店員がオーダーを取りに来ていた。ここまで正確に話が分かるということは、このがやがやとうるさい店内の中で同時に話を聞き取れることに違いなかった。現にこちらで会話をしながら向こうの話のタイミングを測れることは普通では難しいことだろう。
「すごい、頭が混乱しそうなのによく分かりますね」
「慣れるまでは時間かかりましたけど、今ではだいぶ聞き取れますよ」
山岸は少し照れるように頭に手を当てて笑みを浮かべた。そして海野さんは?と尋ねる。海野は待ってましたというばかりに鼻を膨らませて、スマホを取り出した。
「これ俺のツイッターね。よく画面を見てて」
数十秒ののちに画面に新しいツイートを浮かび上がる。男3人でファミレスなう、と書かれたその文面はたしかにスマホを一切操作していないのにひとりでにメッセージとして現れた。
悠人は山岸と共に、おぉと声を上げる。
「たしかに勝手にツイートされていった。今頭の中で操作したんですか?」
「そうよ、すごいでしょ?」
海野はしたり顔で2人を見つめ返した。3人それぞれの能力を披露したその場は不思議な高揚感に包まれていた。それぞれが互いに凄い能力であることを確認し、同じ能力持ちとして共通意識を感じる。森岡にしか能力のことを話せなかった悠人にとって、自分と同じような仲間がいることはとても心強かった。
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