第20話

神社の前に立つ男3人。彼らの共通点は見た目では分からなかった。高校生くらいの若い青年、どこにでもいるような見た目の大学生、少し小太りの30代の男。側から見たら不審に思えるほどミスマッチな組み合わせだった。全員男なことが唯一の共通点と言えるだろう。


ざぁっと神社から線香の匂いのする風が3人の間を吹き抜ける。その甘やかな匂いに鼻をくすぐられ、この神社の前に3人でいることの不思議さを浮き彫りにさせられた。誰も何も言わずとも神社に入っていく。


「ここで力が入ってくるのを感じたんです」


山岸が蛸の足を指差しながら言った。少し下がり眉の頼り無さそうな青年は、丁寧な言葉遣いで二人に語りかける。自分が最年少だと分かっての行動だと思うと、見た目とは裏腹にしっかりしているのではないかと思わせた。カピバラみたいだ、と悠人は一瞬思った。

「おぉー確かに、かぁって手からエネルギーが入り込んでくる感じがしたわ」


ラフな物言いで話す海野は、歳相応の態度で無理なく親近感の湧く雰囲気がしていた。一見横柄なように見える態度も、人の良さそうな顔立ちで何故か親しみが持てた。


「それで話を聞いてたなら海野さんも分かってるかと思いますけど、俺は人の心を読める能力、山岸さんは聖徳太子みたいに沢山の人の声を聞き分ける能力で、海野さんはどんな能力なんですか?」


悠人の問いににかっと笑った海野は、もったいをつけるように大きく息を吸い込んでから口を開いた。


「俺はねぇ、頭の中で考えるだけでインターネットに接続できる能力なんだ〜」


「スマホとか何も持たずにインターネット検索ができるってことですか?」

「そうそう。頭の中にインターネットの画面な鮮明に浮かんできて、好きに操作できるんだよ。ツイッターも何にも持たずにツイートできるよ」

「それは凄いですね!」


便利ですね〜と山岸が手を叩いた。3人で神社の奥へと入っていき、手水場のあたりで立ち止まる。ほかに参拝客はいなく、静かで風鈴の音だけがした。人が周りにいないので悠人にとっては快適な空間だった。サングラスなしでも人の声が聞こえて来ない。


「俺の能力はいつでも証明できますけど二人の能力もちゃんと知りたいので証明してもらえますか?」

「あ、それなら人が多いファミレスとかがいいです!」

「俺はどこでも出来るからいいよ、ファミレス行こうか」


じゃあファミレスまで案内しますよ!と山岸が率先して歩き出した。



正直、二人が病気を治す能力じゃないことに少しだけがっかりしていた。しかし仲間がいるということは充分に望みをつなぐ役には立った。この2人からさらに広げて行けば病気を治す能力の人に出会えるかもしれない。その為の一歩だと思えば進歩していると思える。第一にこんな能力を得ている人が自分だけじゃないことを知るのは非常に有益なことだった。不安でもあるしほとんど誰にも話せなかった悩みが共有できるのは大きかった。


前を歩く山岸と海野を見て感慨深さを感じる。たまたま掲示板で出会った2人だ。インターネットという嘘でも何でもつける場で、俺を信じて会いにきてくれた稀有な存在だ。悠人はとても心強かった。2人の能力が森岡を助ける力になるとは思えなかったが、それでも充分だった。

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