第4話初めての戦闘

馬車を取り囲んでいる山賊達は、リーダーらしい男の待てという指示を守り、ネズミ一匹すら逃がさない包囲網を敷いていた。




「今すぐ馬車から降りてこい。そうすれば命だけは助けてやる。ただし、出てこない場合はもちろん皆殺しだ」




リーダーのその言葉とは裏腹に、周りの男達の目は絶対に生かす気がないと断言出来るほどギラギラとしていた。しかし、数秒後その言葉を馬鹿正直に信じたのか、従者らしき数人の男女とドレスに身を包んだ高校生ほどの女性が降りてきた。




「この馬車に乗っているのはこれで全員です。積んでいる荷物もありません。これで本当に命は助けてくれるのですか?」


主人らしい女性がビクビクと震えながらリーダー格の男に尋ねた。見るからに怯えている。




「いや、出てくるのが少し遅かったな。俺の気が変わってしまったじゃないか。やはり全員殺すことにしよう」


最初からそのつもりだったのが男達のニヤニヤ顔からわかる。しかし、その彼女等は本当に降りてきたら命は助けてくれると信じていたのか、絶望に顔を青ざめさせている。




「さぁお前ら、存分に遊んでやれ」


リーダー格の男の言葉を合図に男達が一斉に飛びかかろうとしたとき、不意に円の外側にいた男が倒れた。




それを見た周りの男が何があったと浮き足立っていると、1人、また1人と外側にいた男達が倒れてくいく。




「何があった!状況を確認しろ!!もし敵なら即座に切り殺しちまえ!!」


リーダー格の男の命令も続々と倒れていく仲間に畏怖してしまっている男達には、聞こえていなかった。




その後も続々と倒れていき、遂にリーダー格の男を含めた数人になってしまっていた。1人も死んでいないにしろ、何があったのかも分からないままに仲間が倒れていく様は、恐怖のどん底に叩き落とすには十分だった。




その場にいた彼女等はその光景を唖然とした表情で眺めながら立ち尽くしていた。無理もない、さっきまで殺されかけていた相手がいきなり倒れていくのだから。




「なんだよ、なんだってんだよ。おい、誰だ、姿を見せやがれ」


リーダー格の男の焦りに満ちた言葉に反応したように、近くの木の枝からガサッと音がして、男が1人飛び降りてきた。




「このぐらいの人数なら、練習台には丁度いいかな」




もちろん伊織である。そして降りてきた時に呟いた言葉をリーダー格の男は聞き逃さなかった。




「れ、練習台だと、、てめぇふざけてんじゃねぇぞ!そんなことで俺らを襲ったってのかよ!」


その言葉通り伊織は、一連の急襲の張本人である。どうやって誰にも気付かれず襲っていたか、答えは簡単である。地面の小石を集め、木の上から投球の要領でヒットさせていたのである。




「まぁ、流石にあの数捌けとか無理があるからな。少し数を減らさせてもらったよ」




伊織のある意味挑発とも取れる説明を受け、男達は額に青筋をピクピクと浮かべ、自分の持っている武器を握りしめた。




「調子にのってんじゃねぇぞガキがー!!!」


リーダー格の男の怒声と同時に男達が一斉に襲いかかってきた。


相手の数は7人、それぞれが1つ武器を持っている。斧や曲刀、長刀なんかもいる。リーダー格の男だけは槍を持っている。




最初に二人が斬りかかってきた。どちらも曲刀を手にしている。流石山賊と言うべきか、全員微塵の隙もない。上段に斬りかかって来るのを、屈んで避け、予想外の空振りでよろついた男達にそのままの勢いでマンガで見たような足払いを放つ、見よう見まねでもどうにかなるようで、男達は顔から眼前の木に突っ込んだ。




いつの間にか周りを取り囲んでいた山賊達に、俺がやると指示をだし、リーダー格の男が出てきた。槍を下段に構えた形で伊織と対峙する。




「よくも仲間をやってくれたなガキが、お前にはたっぷりと礼をしなくちゃならねぇな。生きて帰れると思うなよ」




先程の怒声と打って変わって至極冷静な殺意をもって語りかけてくる。その表情から伊織は、少し集中して戦闘に望もうとしていた。

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神様、俺の日常を返してください 夜十奏多 @yatoukanata

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