第3話

多少距離が伸びたくらいどうってことはないと高をくくっていたけど、とんでもなかった。どうも目的地はとても遠い場所にあるらしい。田舎をなめていた。バス停とバス停の間の間隔が広いのだ。気づくべきだった。まあ気づいていたところでどうしようもないのではあるけれど。ちくしょう、と小さくつぶやく。とはいえ、一応は舗装された道が続いているから、ましだろう。土と草がむき出しの場所を歩くのはもっと重労働だったはずだ。前向きに考えよう。前向きに。

黙々と歩く。あまり考えることはしない。ただ黙々と。

辺りは大分暗くなっていて、虫が鳴いている。少しうるさいくらい。名前も知らない虫だ。昔の人なら風情とやらを感じたのだろう。ただ、今の私には縁もゆかりもないうるさい音にしか感じられなかった。一応謝っておく。ごめん、よく分かんない虫。

所々に民家がぽつぽつとあった。だいたい2、3軒まとめて現れて、家も何もない場所があって、また2、3軒といった具合に。中には人の住んでいる気配のないものもいくつかあった。もうだれも住む人がいなくなった家は見た目ですぐに分かる。何もない場所よりも寂しさが増している気がした。取り壊されてしまった方がましなんじゃないだろうか。

時折現れる家を見ながら歩いていたけど、やがて家も現れなくなってしまう。目的地に近くなってきたということだろう。疲れていたけれど、少しだけ元気を取り戻す。とにかく、道なりにひたすら歩いていく。虫の声は相変わらず止まない。けどもうそれほどうるさくは感じなかった。

やがて「この先○○川」という標識を見つける。ようやく目的地だ。

少し早足になる。辺りはすっかり暗くなっていた。はっきり見えるものが驚くほど少なかった。明かりがないとこんなにも見えないものなのか。躓かないように注意する。ぼんやりと橋らしきものが見えてきた。水の流れる音もしてきたような気がする。ようやく着いたのだ。

やってきたよ、蛍。

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