第2話

電車に乗って20分もすると人もいなくなってしまった。ガタンゴトンという電車の走る音と「次は○○駅~、次は○○駅~」というアナウンスが時々入る以外には音がない。大変静かだ。手持無沙汰になってしまった。何か本でも持ってくればよかったかもしれない。電車内の広告はすでに何度も見て飽きてしまった。行楽地や薬の宣伝ばかりだった。それくらいならテレビのCMでもよく見ている。とくに興味もそそられない。ただ窓の外をボーっと見るだけになってしまった。

それから10分間ぐらいはそうしていると、やっと私の降りる駅に着いた。あまりにもボーっとしていたので、危うく乗り過ごすところだった。慌てて降りる。ドアが開くと少し湿った空気が体を包んだ。もうすぐ夏だ。夏になったら、「平成最後の夏、平成最後の夏」とセミのようにやかましく騒がれることになるのだろう。少し顔をあげると今年で100回をむかえる野球大会の広告が目に入った。やれやれ。

あきれている場合ではなかった。これからさらに20~30分バスに乗って目的地を目指さなくてはならない。早く改札を出なければ。私は少し早足でホームの階段を上った。

次に乗ったバスの中もだいたいは電車の中と同じだった。そもそも本数が少ないバスだから電車の時よりも大分人数が少なかった。

山奥に入っていくにつれて、道がグネグネと曲がるようになった。ぐらぐらと体がゆれる。気を抜くと酔ってしまいそうだった。あんまり揺れるので倒れはしないかと少し不安になってしまったけど、もちろん杞憂だった。

ただ一つ誤算があった。バスの終点がいくつか前になっていたのだ。なんでも乗客の減少のために平日の夕方から夜にかけては走行距離を短くしているらしかった。

運転手さんは「そっかー。知らなかったかー。ゴメンねー。」と妙に間延びする声で何度も謝ってくれた。間違えたのはこっちの方だったので、申し訳なかった。

バスを降りる。本来の終点はもう少し先のはずだが仕方がない。元々、目的地までは歩く必要があったのだ。多少距離が伸びたところでどうということはないだろう。無理やり自分を励まし、私は目的地に向かって歩き出した。

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