回想①
蛍と出会ったのは実は今年の4月だった。クラス替えによって同じ組になり、席が前と後ろだったのだ。(蛍が前で、私が後ろだ)
話しかけてくれたのは蛍の方からだった。まあわたしは積極的な性格ではないから、というよりも、人付き合いに非常に消極的な性格だった(そして今もそうだ)から当たり前だったけれど。
でも、私たちはすぐに親友になることができた。まるで幼稚園の時からの幼馴染のように。どうしてそうなることができたのかと聞かれても非常に返答に困ってしまう。気づいたらなっていたとしか言いようがなく、私自身が一番驚いているのだ。それまでこういう経験はなく、大抵一人だったのだから。
私と蛍の会話といえば、だいたい蛍が話題を振ってくれて、私がそれに合わせていくというスタイルだった。漫画に出てきそうなほどステレオタイプな関係だったかもしれないけれど、私はとても満足していた。いや、安心していた。人生案外わかんないものだとか思っていたりもした。学校に行くのがそれほど苦にならなくなったのは蛍のおかげだ。蛍は私を変えてくれた。恩人といって差し支えないだろう。
蛍は自分の名前をとても気に入っていたようだ。ボロボロになるまで読み込まれたホタルについての本をいつも通学用のかばんに入れていた。小学校の頃両親に買ってもらったものであるらしい。何度も読んでもうどのページに何が書いてあるか暗記してしまっていた。そしてそれをことあるごとに私に自慢してきたものだった。
蛍と出会って間もないころ、そこまでホタルを気に入っている理由について尋ねてみた。理由は次のようなものだった。
「え、だって、とても健気じゃない?」
「健気?ホタルが?」
「うん。あ、あとなりふり構わず一生懸命なところも好きかな。」
ますます分からなかった。それは私たちの主観じゃないのだろうか。
「それは見方次第じゃないの?」
「そうかな~。だって自分から光るんだよ?もうすぐ死んでしまうから、とにかく必死。自分の役目のことだけかんがえて全力を尽くしてる姿はいいと思わない?」
「そういうものかな?悲しくならない?」
「そういうものだよ。もちろん悲しいかもしれないけど、いつかは誰でも通る道だからね。ホタルを見てると私も頑張んなきゃな~という気持ちになるんだ。」
「そっか。」
蛍が言わんとすることはわかるような、わからないような感じだったけれど、この時の私はそれ以上踏み込むことに躊躇した。せっかくできた友達を早々になくしたくはなかったのだ。
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