解決編 めんどくさい
「自転車泥棒が、使った後でこっそり返しに来たとか……、区の人が、間違えて持って行ったのに気付いて返しに来たとか……。うーん、何か他にあるかなぁ」
ユウキちゃんが色々なシチュエーションを考えている。
それを横目に、朋華は一言「おかわり!」
「もうないよ。そんなに食べたら太ぉごっ!」
久しぶりに腹パンを喰らってしまった……。
「育ち盛り、な、の!」
怒りをあらわに、俺へ言い含めるようにゆっくりと答えた。
話を戻そう。
「カギは付けたままだったの?」
肝心なことを聞いておかないと。
「うーん、カギは取ったはずなんだよね。日曜に見つけたときもカギ掛かってたし」
「ストーカーが持って行ったかもしれないな」
静かにテレビを見ていたユキさんも、いきなり参戦してきた。
「朋華ちゃんのストーカーが持って行って、GPSをこっそり付けて返したのかもしれない」
出た、ユキさんの「朋華ストーカーが犯人」説。
(どうすんだよ、またストーカーだって言いだしたぞ)
(えぇ、おじさんが何か言ってよ)
(ここは朋華が答えるところだろぉ)
(やだよぉ、なんて言えばいいか分からないもん)
二人で肘を小突き合ってると、ユウキちゃんが呆れたように言った。
「その
ともかくストーカー説はさすがに突飛だろう。
ユキさん、店は娘さん夫婦に任せて暇なもんだから、テレビの見過ぎじゃないかな。
そもそも、あまり乗らない自転車にGPSを取り付けるメリットが犯人側にはない。
「お母さんが朋華ちゃんを驚かそうとして、こっそり隠したとか。
あ、でもその日はお母さん居なかったのか……」
ユウキちゃんは口をへの字にして、うーんと唸っている。
「いや、ユウキちゃんの意見はイイ線行ってるんじゃないかな。もう一つ、確認。お母さんは金曜日に出張へ行ったんでしょ? 朝早く出掛けたの?」
「ううん。飛行機の時間がお昼頃だからって、ゆっくりしてたよ」
なるほどね。
これで条件も出そろって、俺の推理は完了。と思ったら、ぐほぉっ!
「いま、俺は分かったって顔してニヤけたでしょ」
目を細めた朋華が冷たく言い放つ。
それなら言葉だけにして、腹パンは止めてくれよぉ。
口にすると、もう一発飛んできそうなのでぐっとこらえた。
「で。何でなの?」
「難しく考えないで、単純にアリバイをみていこう。
まず、自転車の存在が確認されていたのは、金曜の朝までと日曜の朝以降。
つまり、犯行時間は金曜の昼頃から土曜の夜までと考えられる」
「うん、それで」
ユウキちゃんが身を乗り出す。
「関係者の中で、その時間にアリバイがないのは……」
「……ママだ!」
朋華が息と共につぶやく。
「もともと鍵を使えるのは朋華の他にはお母さんしかいないからね」
彼女に微笑んで話を続ける。
「ここからは推測だけど、お母さんは飛行機に乗る時間に合わせて出掛ける予定にしていた。
ちょっと支度に時間が掛かってしまって、駅まで自転車で行こうと思い、カギを持って部屋を出た。
ところが、駐輪場まで来て自転車に乗ろうとしたら……しまった、間違えて朋華の自転車のカギを持ってきてしまった。
取りに戻ろうかと思ったけれど、マンションの部屋まで行くのもめんどくさい。確か朋華の部屋は十階だったよね」
「うん。ママもめんどくさがりだから……」
「そこは、親子だから似てるんだよ。
朋華の自転車が外に停めてあるのは聞いていたから、それを使っちゃえ、と駅まで行き、駐輪場に停めて空港へ向かった。
帰ってきた土曜日も夜遅くなったし、面倒だから外に停めた……真相は、こんな感じだと思うよ」
「チョー納得なんですけどぉ」
ユウキちゃんが笑顔で言う。
「もぉ! ママったら、ちゃんと話しておいてくれればいいのに」
朋華は少しふくれっ面だ。
「あまり自転車を使わないのを知っていたから、気にしなかったんだよ。
おかげで、みんなの推理で盛り上がったじゃん♪」
そして、急にユキさんが一言。
「ストーカーじゃなくて、よかった」
えっ、そこですか。
―了―
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