第四章 消えて現れた自転車
事件編 朋華の自転車
「ただいまー」
「おかえり。今日は遅かったじゃん」
「色々とあるのよ、わたしにも」
朋華が学校帰りにここへ立ち寄るのは、ほぼ毎日と言っていいほど当たり前の光景だった。
誰もいない家に帰るのが寂しいのは、私もよく分かっている。
まぁ、ウチにはクールビューティーな蘭がいるけれど。ネザー
この日は常連さんが二人、既にくつろいでいる。
みんな、ここが探偵事務所だと言うことを絶対に忘れている。いや、認めていないのか。
まぁ、俺としても話し相手が出来て、楽しいのだけれどね。
ユキさんは、事務所の隣にある喫茶店『
亡くなった親父の友人で、俺が生まれた頃から知っている。
遠い親戚より近所の他人、ということで、たまに留守番もお願いしているダンディな老紳士だ。
ユウキちゃんは中学一年生になっても、たまに遊びに来てくれていて、朋華とも顔なじみ。本を読んでいた顔を上げて、ソファから彼女に手を振る。
そう言えば、この四人で「謎の男」の推理をしたんだっけ……と思いながら、ユウキちゃんと向き合うように座った朋華へ顔を向けた。
「今日は早めに帰らなくていいの? お母さん、出張から帰って来たんでしょ」
「うん、土曜日の夜に。そう言えば、金曜にちょっと不思議なことがあって」
「どうした?」
おやつのクッキーを皿に入れながら続きを促す。
「木曜の夜、塾から帰ってくるのが遅くなったから、めんどくさくて自転車を外に停めたの」
早速、皿に手を伸ばしている。
ユウキちゃんも「いただきまーす」と、一枚を口に入れた。
「あの歩道に沿った所? あのマンションの人、たまにあそこへ停めてるよね」
彼女のマンションを思い浮かべる。
たしか奥行二メートルほどの歩道状空地があったはず。あれで建物の高さ制限を緩和しているんだろうな――いけね、つい色々と考えちゃう。
それだけ体に染みついているってことか。
ここは朋華の話を聞かなくちゃ。
「うん。その時も何台か停まってたし、いいか、と思って。
それで、金曜の朝、学校へ行くときには置いてあったのに、帰ってきたら自転車がなくなってたの」
「路上駐輪の取り締まりで、区に持っていかれちゃったんじゃないの?」
ユウキちゃんが話に加わってきた。
この辺りは駐車だけでなく駐輪の取り締まりも厳しくて、たまに区の保管場所へトラックで運んでいってしまうことがある。
「でも、あの場所はマンションの敷地内だよね? 道路に停めていたら撤去されることもあるけれど」
「だから大丈夫だと思って停めたんだけどね。わたしも、区役所に持っていかれちゃったのかなぁって。
まぁ、あまり乗らないから困らなかったけど、それが日曜日の朝に同じ所へ停まってたんだよぉ!」
「えっ、戻ってきてた、ってこと?」
「そうなの。何があったの?って感じでしょ」
最後のクッキーに手を伸ばし、ユウキちゃんの問いに答える朋華。
「木曜の夜に停めた自転車が、金曜の朝にはあったのに夕方には無くなっていた。そして日曜の朝には戻っていた、ってことだな」
これが今回の事件の全容である。
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