解決編 論理的思考
「朋華の進め方もオーソドックスなやり方で悪くなかったよ」
「何、その上から目線」
「そういうつもりじゃないけどさ。今回の話は、まず教室を出て行った順番を考えてみるのがいいんじゃないかな」
「どういうこと?」
カンナちゃんが聞いてきた。
「五人が残っていたけれど一度に教室を出たのではなく、一人ずつ出て行っている。誰が残っていたのかを考えれば、順番も分かるでしょ?」
「あの話だけで分かるの?」
今度はリンちゃん。
「嘘をついているのは箱をつぶした一人だけで、他の四人は嘘をつく必要がないから本当のことを言ってるよね?」
「そうだと思う」
リンちゃんの言葉にカンナもうなずく。
「それならば、みんなの話を一つずつ整理していけば分かるはずだよ。朋華、メモしてくれる?」
「オッケー」
「まずは一番簡単な所から。最後に残っていたのは誰?」
「さっき朋華ちゃんも言ってたじゃん。ヒカルだよ。最後だったって自分で言ってたし」
「その通り。それじゃ最後から二人目は?」
「えーと……タケシ! ヒカルしかいなかったって」
「そう。この時点で教室にはヒカルとタケシがいる。次に残ってたのは?」
朋華はヒカルの上にタケシ、と縦に並べて書いている。
「えー、誰だろう?」
カンナが悩んでいると、リンちゃんが声をあげた。
「わかった! ハヤテだ。私が教室へ行ったときにすれ違ったよ」
俺がOKサインを出すと、リンちゃんがニヤリと笑った。
「リンちゃんは教室にタケシとヒカルがいた、って言ってたから、さっき考えた順番とも一致するよね」
「残る二人、リョウ君とレオン君はどちらが後に教室を出たのか。よーく二人の話を思い出してみて」
「分かった!」
今度は朋華だ。
「レオン君は『教室には三人が残ってた』って。ここで出たんだ」
「正解。と言うことは、最初に出たのがリョウ君。教室に一人でいたことなんてなかった、って言ってたしね」
メモには上から順に、リョウ、レオン、ハヤテ、タケシ、ヒカル、と五人の名前が書かれている。
「え? ちょっと待って……」
メモを睨んでいた朋華が顔を上げた。
「私、分かっちゃったかも」
俺と目が合ったので笑いかけてやると、満面の笑みを返してきた。
「それじゃ、朋華から説明してあげて」
「この順番通りだと、レオン君はリンちゃんが教室にいたのを知らないはずよね」
自分で書いたメモを見せながら、ハヤテとタケシの間にリンと書き足した。
「ホントだぁ!」
「レオン、図書室にいたって言ってたのに……」
「それなのに、リンちゃんが教室で何かを探してたのを知ってた。どこかに隠れていて、教室に誰もいなくなるのを待ってたんじゃないかな」
朋華の説明を受けて、俺が話を続けた。
「おそらくカンナちゃんが隠し持ってたものが気になって、こっそり見たかったんだろうね」
「でも、箱をつぶすことないのに……」
カンナが口をとがらせる。
「わざとじゃないと思うよ。うっかり箱を落として踏んじゃったとか、そんな気がする。意地悪するつもりならば、どこかへ隠したり捨てちゃったりするだろうし」
「レオン君はカンナちゃんのことが好きなんじゃない? それで気になっちゃったんだろうなぁ」
朋華もフォローしてくれた。
「どちらにしろ、証拠がある訳じゃないし、レオン君を責めないであげて」
「……わかった。おじさんがそう言うなら、そうする」
「さっき、何で教室のことを聞いたの?」
「あぁ、あれは図書室から教室の中が見えないはずだと思ったからね。図書室は新校舎棟の一階にあるのを覚えていたし」
リンちゃんの質問に答えると、カンナが一言。
「なんか、おじさんて探偵みたーい♪」
おいおい、マジに探偵だから。
君たちのボディガードだけじゃないから。
「それでね、これ――」
カンナがランドセルから取り出したのは、箱がつぶれたチョコレートだった。
「いつも、おじさんが守ってくれてるから、そのお礼」
ハイ、と差し出して帰ろうとする。
「あ、待って。私が送っていくから三人で帰ろ」
帰る支度をしながら、朋華がカバンの中からチョコの箱を取り出した。
「はい、私からも」
「おー、ありがとう! 朋華からなんて初めてじゃん」
「去年までは中学生だからね。お小遣いも少なかったの」
「マジにうれしいよ。ありがとう」
「それにしてもさ。何でこういう日にチョコ菓子を買っておくかなぁ」
「いや、こんな風に二つももらえるなんて思ってなかったから」
「それぐらい読まなくちゃ。探偵なんだから」
そう言って笑いながら、三人は帰って行った。
*
後日、レオン君がカンナに謝った話を聞いた。
どうやらリンちゃんがこっそり彼に話して仕向けたらしい。
リンちゃん、グッジョブ!
―了―
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