推理編 朋華、探偵してみる

 二人もランドセルを降ろして、朋華と向き合うようにソファーへ座った。

「まずは、この五人の中で怪しい人物はいる?」

 何だ、その漠然とした質問は。

 そう突っ込みを入れたいところだけれど、事情聴取をするかのように身を乗り出して聞いている朋華を見て、しばらく黙っていることにした。


「うーん、誰かなぁ」

 二人で顔を見合わせている。

「あやしいって言うか、やっちゃいそうなのはタケシだよね」

「そうかも。タケシって、体も大きくて力が強いし、ちょっとおっちょこちょいな感じなの」

「自分では箱をつぶしたつもりがなくても、机の横を走って通ってつぶしちゃったとか」

「ありそう、ありそう」

「もう少しやせればいいのにね」

「でも、ドッジのときは頼りになるよ。すごいボールを投げるもん」

「おじさん、メモ用紙とペン貸して」

 話が逸れ始めたところで、朋華から声が掛かった。

(まるで助手だな)

「タケシ君はカンナちゃんの机の近くにいたという証言もあるから、重要参考人ね。過失の疑いもあり、と」

 メモ用紙に何やら書き込んで、すっかり探偵気取りだ。


「次は動機かな。カンナちゃんのことをいつも意地悪する子とかいる?」

 怨恨の線か。

 プレゼントの箱をつぶすという行為から、怨恨とすれば同姓だと思うけど。

「意地悪されたことはないよ。うちのクラス、いじめとかないし」

「そっか。それじゃ、カンナちゃんのことを好きな子は?」

 今度は嫉妬かぁ。

 男の子五人なら、こっちの線の方がありそうだ。

「えーっ! そんなの分かんないよ」

「カン子さん、モテるからね」

 リンちゃんがクールに言う。

 確かにモテそうだよな。目鼻立ちがはっきりした美人だし、学芸会で主役をやるくらいだから華があるし。

「そんなことないよぉ」

「この中なら……ハヤテかな。カンナと仲良いよね」

「リンだってハヤテと仲いいじゃん」

「じゃぁ、強いて言えばハヤテ、って感じね。ちょっと動機としては弱いか……」

 メモを取りながら考え込む朋華。

 見ていて面白い。

(そんなこと言ったら、腹パン飛んでくるぞ)


「んー、決め手に欠けるなー」

 両手を上に伸ばし、ソファーの背にもたれ掛かっていた朋華が、急に身体を起こした。

「ねぇ、最後まで残っていたのって――ヒカル君だっけ。彼が出て行ってから教室に入った人はいないの?」

「それは分からないの」

「みんな校庭で遊んだり図書室に行ったりしてたからね」

「昼休みが終わって教室に帰ってきたときは、太田先生しかいなかった」

「えっ! まさか先生が……」

 おいおい。いくら何でもそれはないだろ。



「うーん。最後に一人で教室にいたヒカル君も怪しいけれど、やっぱりタケシ君が自分でも気づかないうちにつぶしちゃったのかな」

 朋華探偵の推理はまとまったようだ。

「おじぃはどうなの?」

「だからいつも言うように、は要らないから。伸ばすのは止めなさい」

 リンちゃんに返した後、念のため一つだけ二人に確認をした。


「教室って、確か三階だったよね」

「うん、そうだよ」

「それじゃ、やっぱりかな。一人だけ嘘をついてるからね」

「ほんと!? おじさん分かったの?」

「おじぃ、教えてよ」

「つまんないなー。またドヤ顔してるし」

 朋華は座ったまま、頬杖をついて横目で俺を見上げている。


 ここからは探偵と助手を交替させてもらうとするか。

 俺の椅子をソファー近くまで転がし、座り直した。

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