第五話 「まさか異世界の住人だったとはね」

 気が済むまで語らせてやるか。

 ユウキちゃんともアイコンタクトを取った。


「そもそも、なぜ電話だけ取り外して台を残したのか? ホールの隅にあって何の役にも立っていない電話台を残したことにこそ意味があるはず」

 おっ、俺の筋立てに寄せてきたな。

 いい心掛けだ。

「台そのものよりも、きっとあのプレートね。実は繋いでいたのは電話だけじゃない、異世界とも交信出来たのよ!」

 こうなった時の朋華は、知り合った小学四年生の頃から変わらない。

 目をキラキラ輝かせて自分の空想に浸って、思いをぶつけてくる。

 本を読むのも好きなんだし、小説とか書いてみればいいのに。

「あのオジサンはコーヒーCMのジョーンズさんみたいな異世界からの調査員、それとも特異点なのかもしれない。

 でも、あの台を残すのを決めたのは区役所だから……役所の人の中にも異世界から来た人がいるはずだよね!

 ひょっとしたら少しずつ入れ替わって、あの区役所はもう異世界の拠点になっているのかも!?」

 ラノベの読み過ぎだよ。


 とりあえず、思いの丈をぶちまけて、少し落ち着いたみたいだ。

「話としては面白いからさ、今度小説にしてみれば?」

「えっ、なに!? あたしが書くの?」

「うん。イラストだって中学の頃から書いてるんだから、挿絵も自分で書けばいいじゃん。きっと楽しいぞ」

「朋華ちゃん、イラストも描くんだ」

「新宿の世界堂へイラストの本を買いに一緒に行ったこともあるし、コピックって言うんだっけ、専用マーカーペンを誕生日プレゼントに買ってあげたんだよ」

「へぇ、見てみたいな」

 ユウキちゃんの援護もあって、朋華もまんざらではない様子。

 どうやら腹パンを喰らわずに話を変えられそうだ。


 今のうちに、パソコンで区役所付近の地図を確認するが……。

「で、裏付けは取れたのー?」

 つまらなそうに朋華が言う。

「いや、これじゃ分からないや」

「とりま、おじさんの意見を聞かせてよ」

 ユウキちゃんはそう言うけれど――そうだ!


「来週、確かめてみない? まだ試験休みなんでしょ」

「来週も休みだけど、どうするの?」

「もちろん尾行するんだよ。謎の男を」

「面白そう!」

「私もやりたーい!」

「ユウキちゃんは学校があるでしょ。残念だけど我慢して」

「えぇーー。朋華ちゃんだけ、ずるーい」

「仕方ないでしょ。結果はすぐに教えるから」

「それじゃ、謎解きもお預けにしておいて。尾行の結果が分かってから聞かせてよ」

「いいよ。朋華もいいよね」

「うん、オッケー。もし、間違っていても、ちゃんと話してね。どんな推理をしたのか知りたいし」

「もちろん。ま、当たっているとは思うけど――ぉげっ!」

「だーかーらー。ドヤ顔は、す・る・な」

 いいじゃんかよぉ、ちょっとくらい。

 (学習しろ)

 ふんっ、腹パンされるのも楽しみなんだよ! と強がってみる。


「私にも聞かせてくれよ」

 ユキさん、二時間ドラマに集中していていいのに。

「もちろん報告しますよ」

 朋華のバイトが休みとなる火曜日に決行することとして、この日は解散となった。

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