第四話 「リストラされたオジサンでしょ」

 朋華と向き合うようにソファへ座り直したユウキちゃんが、リストラ説を話し始めた。


「毎日区役所そこへ来てお弁当を食べるってことは、他に行くところがないからでしょ」

 そこが一つのポイントだと思うな。

 行くところがないというか、そこへ来ざるを得ない状況があるはず。

「しかもコンビニ弁当だし。奥さんの手作りなら愛されてるなぁって感じだけど、家に帰っても相手にされてないんだよ」

 そこまで決めつけちゃうと、このオジサンが可哀想じゃ――。

「そうだよね、きっと」

 えっ、同意しちゃうの、朋華……。

 世の中のオジサンたちに同情を禁じ得ません。

 (あんたも同じ、おじさん)

 はい、スルーして続きを。


「サラリーマンみたいな服装に途中で着替える訳ないから、家からその格好で出掛けてるはず。奥さんにはリストラされたことを話してないんだね」

「やっぱ、話してないのかぁ」

 何度もうなずく朋華。

 ここからは二人の女子トークをお楽しみください。

「仕方なく、会社に行く振りして家を出る」

「行くとこもないから、ぶらぶらして過ごすんだ」

「お昼くらい、座って食べたくなるよね」

「ファミレスじゃお金が掛かっちゃうから、コンビニで買う」

「区役所ならただで座れるし」

「あの台ならテーブル代わりに出来るし」

「ひょっとしたら、NT〇をリストラされたのかも。だから電話が置いてあった台にこだわってるんだ」

「えー、それってマジに可哀想すぎるー」

 悲哀漂う孤独なおじさんへ、二人が思いを馳せたところで一段落。


「面白くはないけど、これが正解なのかなぁー」

 ソファの背にもたれて両手を上げ、伸びをするようにしながら朋華が言った。

「せっかくの推理に水を差すようだけど、トイレを使いに来た件は?」

「あれはたまたまなんじゃない? 毎日、五時頃に来るわけじゃないし」

「わたしもそう思うな」

 俺からの質問に答える二人。

「トイレを借りに来た時刻が意味を持つとしたら?」


「何、そのドヤ顔。なんかヤな感じー」

 朋華は目を細めて視線をこちらへ向ける。

「えっ、おじさん、分かっちゃったの?」

 ユウキちゃんは座ったまま身を乗り出した。

「うん、俺なりの推理はしたよ。あとは区役所付近の地図を確認して――ぇげっ!」

「ちょっと待ったぁーっ! まだ推理は尽くされてないよ」

 腹パンした勢いをそのまま、立ち上がる朋華。


「まさか異世界の住人だったとはね。やっぱりあそこは異世界へのゲートだったのよ!」

 おいおい、それは推理じゃなくて妄想だよ。

 今度も心の中でそっと呟いた。

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