推理編

第二話 「やっぱりストーカーじゃないか?」

 てっきり、今回は話なんて聞いていなくて、テレビに集中していると思ってたのに。

 声の主は、事務所の隣にある喫茶店『輪舞曲ロンド』の元マスター、ユキさん。店は娘さん夫婦に任せて暇にしているので、俺の外出時には留守番を頼んだりしているダンディな老紳士だ。

 この日もふらっとやって来て二時間ドラマを見ていたはずが、謎の男の推理バトルに参戦してきた。


「きっと朋華ちゃんをこっそり見張ってるんだよ」

 ユキさん、全然こっそりなんかじゃないじゃん。相手は堂々とお弁当を食べてるんだから。

「わざと目立つようにしてるのかもしれないな。自分を印象づけるために」

 ほぉ、なるほど……って、んな訳ないから。

「小学生の頃と違って背も高くなったし、モデルさんみたいに綺麗になったからね」

 なおも続くユキさんからの賛辞に、朋華も苦笑いしている。


「ほんと、朋華ちゃん、背が伸びたよね」

 小柄なユウキちゃんがうらやましそうに言う。

「今は何センチあるの?」

「百六十七かな」

「少し痩せたし――ぃぎっ!」

 腰の入った正拳突きを臍の辺りに頂きました。

「女子にそういうこと言う!? まったく……」

「いや、可愛くなっ――ぁがっ!」

「可愛い、って言ったらブッ殺すって言ったよねー」

 もういい加減、照れ隠しに腹パンするのは止めろよぉ。

 それと、そういう言葉遣いも止めなさい。

 と、思いつつ。

 (俺に腹パンしないで、ユキさんに文句言えよ)

 (えー、言える訳ないじゃん。心配してくれてるのは分かるし)

 (なら、腹パンもやめろよ)

 (それは別もの~)

 といったことを、口に出さずにお互いを肘で小突き合って伝えた。

「いつも仲良いよねー、二人は」

 ユウキちゃんが呆れてる。

「バイトの帰りも気をつけないと。後をけられるかもしれないよ」

「ハイ、気をつけます」

 俺が肘で小突く前に朋華が殊勝に答えたので、ユキさんも二時間ドラマの世界へ戻って行った。



「でね、マジな話、あの人はテロリストだと思うの」

 声を潜め、ニヤリとしながら朋華が言った。

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