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「あれ、背伸びた?」

「そうなんです。なぜかまだ伸びているみたいで。成長期って歳じゃないのに」

 軽く見上げながら斉藤君に言うと、頭の上に手のひらを乗せて、エアー身長測定をして見せる。最初にバイトに来てくれた時は俺よりも少し高いくらいだったと思うのに。

「テレビで言っていたけど、成長期って実は二十五歳くらいなんだってさ」

「え、そうなんですか!? まだあと三年もある・・・マスターどうしましょう、二メートル越えちゃったら!」

「二メートルって」

 それがギャグなのか本気なのか。斉藤君は天然だから本気で言ってたりして。

 それは成長痛が尋常じゃないだろうね。

「自分ではあまり伸びた感じはしないですけれどね」

「変わっていないように見えても、ちゃんと成長しているってことだね」

 自分だと成長ってそうそう分からなかったりするじゃない? 特に顕著な成長じゃない限り。

「あの、マスター・・・」

「ん?」

 モップで床を磨いていた斉藤君の手が止まる。どうした?

「俺は、この三年間で成長できましたか」

 じっとこっちを見て言った。

「身長は伸びたし、カクテルだって簡単なものは作れるようになったけど、ちゃんと成長ってできていますか」

 その声はとてもとても真剣なもので。

「ちゃんと成長・・・できてるよ」

「できて、ますか?」

 答えると、少しだけ斉藤君がほっとした表情をしたのが分かった。成長したさ、とても。

 素直さや素敵な笑顔は変わらないけれど、接客ではお客様のことを一番に考えられるようになったし、カクテルだけじゃなく片付けや細かなことも丁寧にできるようになった。

 それが成長と言わなくてなんというのさ。

「それこそ変わっていないように見えても、ちゃんと成長しているってことだね。斉藤君はどこに出しても恥ずかしくない、いい男になったよ」

 そう言い終わると、顔を見合わせて同時に笑った。

「俺、ここにバイトに来てよかったです。最初は時給と時間帯が良いからって決めたけど、凄く良くしてもらえたし、将来のことだって」

「将来の事?」

「俺、将来やりたい事がなくて、でも勉強だけはしなくちゃと思って大学へ行ったから。でも、見つけました、やりたいことを」

「やりたいこと?」

「美味しいお酒を作ることです」

「え?」

「マスターに使ってもらえるような、美味しくて新しいお酒を作りたいって思って」

 そう話す斉藤君はキラキラと輝いていて。なんかちょっと嬉しくて泣きそうになった。

「そっか、楽しみにしてる」

「ふふふ、頑張りますっ」

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