サイダーくん

カゲトモ

1ページ

 ステンレスの作業台を拭いていると、勝手口の方でノブを回す音が聞こえた。もうそんな時間か。

「お疲れ様です」

「お疲れー」

 ひょっこりと柱の向こうから顔を出して斉藤君がニッと笑った。今日も自転車で来たのだろう、スポーティな恰好にボディバックを背負っている姿は、まさに今時の大学生って感じがする。笑顔にもフレッシュさが溢れているし。

「雨、大丈夫だった?」

「大丈夫でしたよ!」

 バックルームから元気のいい声が聞こえた。

「結構曇ってましたけど、まだ大丈夫ですよ」

「そうなんだ。今日は雨降らないのかな。帰りは大丈夫そう?」

 天気ってどうだったかな、ちゃんと見ていなかったから分からないや。

「どうでしょう?」

 斉藤君も分からないようだ。けれどその声はあまりに明るくて。

「降ったら降ったなんで! 濡れて帰ります」

「濡れて帰っちゃうの?」

 あんまり爽やかに言うもんだから、ちょっと笑ってしまう。置き傘ならあるから持って行ってくれてもいいけど。

「濡れて帰っちゃいます。でもなんか降らなそうだし、多分大丈夫ですよ!」

 どこからそんな自信が湧くの。でも斉藤君って晴れ男っぽいしな。

「今日どうする? 飲んで帰る?」

 そうすると雨の中傘を差しながら自転車を押すってパターンになりそうだけど?

 ・・・。バックルームが一瞬静かになる。あれ?

「もしかして・・・今年も? いいんですか?」

「もちろん」

 その為にさっきも用意していたんだし。

「だって斉藤君がバイトに来てくれて丸三年の記念じゃない」

 それに来年は祝えないだろうから。斉藤君は今年大学四回生だもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る