サイダーくん
カゲトモ
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ステンレスの作業台を拭いていると、勝手口の方でノブを回す音が聞こえた。もうそんな時間か。
「お疲れ様です」
「お疲れー」
ひょっこりと柱の向こうから顔を出して斉藤君がニッと笑った。今日も自転車で来たのだろう、スポーティな恰好にボディバックを背負っている姿は、まさに今時の大学生って感じがする。笑顔にもフレッシュさが溢れているし。
「雨、大丈夫だった?」
「大丈夫でしたよ!」
バックルームから元気のいい声が聞こえた。
「結構曇ってましたけど、まだ大丈夫ですよ」
「そうなんだ。今日は雨降らないのかな。帰りは大丈夫そう?」
天気ってどうだったかな、ちゃんと見ていなかったから分からないや。
「どうでしょう?」
斉藤君も分からないようだ。けれどその声はあまりに明るくて。
「降ったら降ったなんで! 濡れて帰ります」
「濡れて帰っちゃうの?」
あんまり爽やかに言うもんだから、ちょっと笑ってしまう。置き傘ならあるから持って行ってくれてもいいけど。
「濡れて帰っちゃいます。でもなんか降らなそうだし、多分大丈夫ですよ!」
どこからそんな自信が湧くの。でも斉藤君って晴れ男っぽいしな。
「今日どうする? 飲んで帰る?」
そうすると雨の中傘を差しながら自転車を押すってパターンになりそうだけど?
・・・。バックルームが一瞬静かになる。あれ?
「もしかして・・・今年も? いいんですか?」
「もちろん」
その為にさっきも用意していたんだし。
「だって斉藤君がバイトに来てくれて丸三年の記念じゃない」
それに来年は祝えないだろうから。斉藤君は今年大学四回生だもの。
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