3-7



 その後もライン博士は三つのルートを表示させ、どのルートがいちばん効率的かつ短期間で、東の山脈に到達できるかを提案した。

 南東ルートは即座に却下が決まった。ドームシェルターに寄る必要があるためだ。ロウとダウヴィに合流する目的があるからだった。


「なるほど、ハリーくんとリンくんの意見からすると、ドームシェルターには仲間がいるため、立ち寄らなければならないというのですね」

 ライン博士が状況を整理してまとめあげた。

 南東のルートの上に×印が表示される。

「残るは、クレバスを通過するか、迂回するかですが……」

「そういうことなら通過するのが、短縮に繋がる」

 リュック博士は待っていましたとばかりに発言した。

「以前、お話ししていたクレバスを渡る装置が完成したのですか?」

 ハリーの発言に、訝しくキャサリンとライン博士は首をかしげた。

「クレバスを渡る装置だって!?」

 ライン博士がすかさずハリーに問い返す。

 ハリーは頷き返した。

「本当かね? リュック博士」

 メガネの科学者が疑いの表情をリュック博士に向ける。彼は頭を掻いて、どう説明するか迷っているようだった。

「いやぁ、それなんだがね。明言してしまった手前、撤回するのもアレなのだが」

 とても言いづらそうに声を低くした。

「完成したとおもったんだが、欠陥が見つかって……失敗してしまった」

 恥ずかしくも頭をしょげてうなずく。

「失敗? 欠陥があるということは、検証に及んでいないのか?」

 ライン博士が強い口調で言い寄った。

「そう、ですか……」

 ハリーは残念そうに表情を曇らせた。

「リュック博士、いちどその装置を見せてもらえないだろうか?」

 メガネの博士は和らげな顔で問いかけた。

「おお、かまわない。ぜひ、あなたの意見を聞かせてくれ!」

 リュック博士は大いに喜び感嘆の声を張り上げた。

「同じ科学者として助言してもらえると助かる。九十パーセントは完成しているのだが、どうしても不安要素があって……」

「九十パーセントが完成しているのであれば、なにか足りない要素が存在するか、もしくは単なるミスの可能性がある。案内してくれないか」

 善は急げとばかりに、ブリーフィングルームから二人の科学者は出ようとしていた。

「ハリーくん、私たちがしばらくしても戻らない場合は、研究室の方へ見に来てくれたまえ!」

「はい、わかりました」

「それまでは、ほかにいい案がないか念のために話し合ってほしい」

 扉の前までマイケルは歩き出した。

「私モ、オ手伝イシマショウカ?」

「お前さんには引き続きシステムのコントロールとハリーのサポートを頼む!」

「了解デス!」

「ライン博士、はやく行こう!」

 短気な博士は、なぜか興奮しているようだった。本来なら年配の彼のほうが、マイケルやハリーたちに指示をするのだが、ライン博士が半熟生徒たちに指示をしている形になった。


 二人の博士がいなくなったところで、ハリーは議長のように進行させていく。なかなかにして、3D立体マップの地形ルートに対しての考察は、女性だけの意見では厳しいものがあった。


 3D立体マップはかなり細かい地形地図を形成している。いくつかの案が出てきたものの、結論にはいたらなかった。提案の議題をあるていど解決するが、ハリー自身、リュック博士の未完成の装置が気になっていた。


 ハリーは、彼らふたりの科学者がいる研究室へと赴いた。リンとキャサリンも、どういう装置なのか興味があったためか、彼の後を追い室内へと入ってくる。研究室の大扉をひらいたハリーは、ふたりの博士をさがした。

「博士!」

 熱心なふたりは、装置の検証をしている真っ最中だった。ライン博士がハリーの存在に気づいたが、リュック博士のほうは未だになにか集中している。

「ライン博士、装置の補完作業はどうですか?」

 ハリーの声にリュック博士もようやく彼が来ていることに気づいた。

 リンが、ライン博士の右腕に装着された装置ガジェットに目がいった。

「その腕輪のようなものが、瞬間に移動できる装置なのですか? 完成したんですね」

 リュック博士はうなずいた。

「うむ、完成したことは完成したのだが……」

「そうだな。完成に至ったが、クレバスを渡るには危険かも知れん!」

 ライン博士は浮かない顔をしている。

「何か問題でも?」

「飛距離だ」

「飛距離?」

 ハリーが首を傾け、

「飛び越えるということですか?」

 ライン博士が装置を手に装着して実演するようだ。

 彼は扉の前まで移動した。約十メートル弱というぐらいの距離である。

「いいかい、ハリーくん。通常の通路や我々のいる平面上では、リュック博士のこの装置は有効なのだが、いや、もちろん地球上の摩擦や抵抗力などもあるが、少しでも凹凸おうとつの激しい場所では、誤作動を起こしかねない危険性があるということだ!」

 ライン博士は装置のボタンを押すと、一瞬のうちにハリーたちの場所へと現れる。

 ハリーには言っていることが何となく分かっていた。だが、おぼろげであった。

 横から見ていたリンが、

「それはつまり、雪原上では誤作動を起こしかねない、ということなのでしょうか?」

 リュック博士がうなずく。一方でライン博士が、

「その通りだ! リンくん、更に付け加えると、天候や密度の変化でも誤作動の要因にもなりかねない。我々が活動する範囲では、十二分に発揮できることは証明したが、吹きすさぶ雪原の中では、半減するのだ」

 キャサリンも欠点が飲み込めたようだった。そのことを知るとハリーは黙ってしまう。

「いやぁ、それでも凄いもの造られたものだな。リュック博士」

「いやはや、あなたに誉めてもらえるとは」

「そうなると、他の手段を考えたほうが……」

 キャサリンがボソリ、とつぶやいた。

 うむ、とつぶやき短気な博士も強く考えこんだ。

 しかめた顔でハリーが、

「そうですね。要は向こう側に渡ることさえできれば」

「崖の幅がせまいところなら……」

 付け足すようにキャサリンが、

「たしかに、崖と崖の間の距離が、せまい……、ばしょ……、なら」

 リンが何かを思い出したように自信に満ちた顔になった。

「リンくん、どうかしたか?」

 何か策があるのかと、首をかしげライン博士はリンをみつめる。

「ちょっと思いついたことがあるんですが、先ほどマップを開いていた時に気づいたんですけど」

「何を、かね?」

「クレバスの中でも、いくつか幅の狭い場所があったのです。そのもっとも短い幅の亀裂に……」

 ハリーも困惑顔で彼女をみつめた。

「どういうことだ。リン、幅の狭いところはたしかにクレバスにはあるが」

「リュック博士の瞬間移動装置を使わなくても渡る方法があるんです」

「どうやって渡るというんだ。橋もないのに」

「ないなら、作るんですよ!」

「つくる? だって!?」

 意表を突かれた結果にハリーたちは言葉が出てこなかった。

                     8へつづく

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