俺とお前の欲しいものが被ったとして。

歌音柚希

俺とお前の欲しいものが被ったとして。

「例えば、俺とお前の欲しいものが被ったとして、それは他に存在しない唯一のモノだとして」

「うん」

「お前はどうするか? って話」

「俺? えぇ、要は君とその唯一無二なモノを奪い合うってことだろ?」

「そういうことだな」

「うーん……できれば君とは争いたくない、けど……どうしても欲しいんだよね?」

「なりふり構わず、それを手に入れるために誰かを殺すことも厭わないくらい欲しい」

「それがなんなのかめちゃくちゃ気になってきたよ……。傾国の美人とか? 逆に聞くけど、君はどうするの」

「……ま、だろうな」

「え!? 本気?」

「そんなに驚くことかよ」

「だって、君のことだから絶対“俺はお前を殺してでもそいつを手に入れる”とか、“悪いな、俺のために死ね”とか言いそうなのに!」

「俺のイメージも大概だな。俺にだって、お前のためならって選択肢もあんだよ」

「えー……嘘だろ……? 信じられない……世界は俺のためにあるって豪語する君が……?」

「それを本気で思ってるほど馬鹿じゃねぇよ俺は」

「本当のことを言ってみて? 大丈夫、引かないから」

「俺はお前の中の俺のイメージに引いてる」

「だって! そうじゃん!!」

「そうかぁ?」

「そうだよ!!!! 何年隣にいたと思ってんの!!」

「十八年だな」

「生まれてこのかた一時も離れたことない俺が言うんだから正解なんだよ!!」

「はッ、お前も意外と強欲だよな」

「……何が?」

「なんでもねぇよ。つか、変な話して悪かったな。帰ろうぜ」

「あー、もうこんな時間か。帰ったら試験対策しないとなぁ」

「そんなんテキトーにやっときゃなんとかなるだろ」

「これだから学年トップは。普段寝てるくせになんでうちの学院でトップとれるんだよおおおおおおおおおおおおおおお」

「俺だからな」

「ムカついた!! 今すごくムカついた!! 勉強教えろ!」

「めんどくせぇなお前……」


「じゃあね、また明日」

「また明日、な」

「……珍しいね? いっつもなにも言わないのに」

「気分だ気分。とっとと帰れ」

「んふ、はいはい! とっとと帰りますよ~……って、ちょっと待て」

「なんだよ」

「結局、さっきの例え話に出てきた君の欲しいものってなんなの? 気になって眠れなくなる」

「……いずれ分かる」

「えぇ~? 曖昧、焦らすね」

「いつか分かるんだからいつか分かるんだよ。帰れ帰れ」

「もう、しょうがないな。絶対教えてよ、いつか」

「はいはい、いつかな」



「速報です。先月から行方不明だった○○大学付属○○学院の生徒会長の生徒が、今日未明発見されました。発見者はこの学院に働く事務員で、警察によりますと、発見当時その生徒は胸にナイフのようなものが突き刺さった状態で生徒会室の椅子に座らされており、机には【欲しいものはお前だった】と書かれた紙が置かれていたとのことです。警察は犯人の特定を急ぐとともに、近隣の住民に情報提供を求めています。また情報が入りましたらお伝え致します」


「なんだこれ」

「おいおいどういうことだ?」

「まるで恋拗らせじゃん? けど口調も筆跡も男だよ」

「同性愛の成れの果てってことか」

「末恐ろしいね! 恋愛事情で男が男に殺される時代だって」

「変なのに好かれないようにしないと」

「あっははははは! 違いないよね~」

「おい、誰だか知らねぇがお前も気をつけろよ? 学院、この近くなんだから。生徒会長って奴はお前みたいな美形だったし、犯人が近くにいたら殺されるかもしれない」

「そうそう、誰だか知らないけど、隣でご飯食べた人が殺されるのも心地悪いしね」

「……ご忠告ありがとよ。親父、会計」

「ちょうど。ありがとうございましたー」

「ホントに気をつけろよ~」




「……ははははは。誰も彼もわかっちゃいねぇ。恋愛? そんなわけがない! 俺の感情がんな低俗なもんなわけがないだろ!」


狂人は笑う。


「欲しかったモノはお前の全て。のは、お前の命だ」


俺はお前を殺してでもお前が欲しいんだよ。悪いけど、俺のために死ね。

そう言ってナイフを振り下ろしたその日のように、美しく。



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俺とお前の欲しいものが被ったとして。 歌音柚希 @utaneyuki

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