第2章 託される願い

プロローグ 『居場所』

 1


 ここはどこだろうか?

 部屋は薄暗く、俺はベッドに寝かされていた。

 記憶が曖昧だ。

 順に思い出していこう。


 俺は灯さんに助けられた。

 その後、大男と遭遇し灯さんは俺を逃がした。

 だが再び大男と出会い、そして死に出会った。

 俺は死に抗い、『鎧』の力に目覚めた。


 そしてココロと出会い、見事大男を撃退した。

 だが、気持ちの悪い男に襲われた。


 苦戦するも、なんとか退けることに成功した。

 やっとのことで灯さんと合流することが出来た。


 だが灯さんは、怪物『ヌル』と化していた。

 俺は覚悟を決め『ヌル』と化した灯さんを倒した。


 だが灯さんは生きていた。

 人間としてではなく別の何かとして……


 生きていたことはとても嬉しい。

 だが新たな存在『全能者』なる者が現れた。


 そいつが灯さんを連れ去った。

 今でも忘れてはいない。

 何も出来なかった自分の無力さを。


 そして施設から出たことは覚えている。

 外の世界を見て、ココロと約束を交わした。

 灯さんを必ず見つける。


 そしてどうなった?


 その後が思い出せない。

 あることに気が付いた。

 俺の手足は鎖に繋がれていたのだ。


 鎖を引っ張るもビクともしない。

 こうなったら鎧化してでも引きちぎる。


 ――『解放』


 だが鎧化する気配がない。


「無駄だ。それには効果がないぞ。そして暴れるな」


 俺は指示通り抵抗を止めた。

 白衣の女が近付いてくる。

 恐らくタバコというものを口に加え、煙を吐きながら呟く。


 何故だか俺は落ち着いていた。

 施設で遭遇した敵がみんな狂気に満ちていたからだろうか?

 この人は敵では無いのだと感じ取ったからだろう。


 だがその期待は裏切られた。


「動くな! お前は敵か味方か⁉」


 拳銃を頭に突き付けられる。

 俺は突然のピンチへと追いやられた。


 2


「もう一度聞く。お前は敵か味方か⁉」


 俺は動揺して言葉も出ない。

 とりあえず首を全力で横に振る。

 それだけの抵抗は見せた。


「冷さんとりあえず落ち着いて!」


 それを止めてくれたのはココロだった。

 助かったぁ……


 全く、必死に戦った後に死ななければならないのか?


「お前はこいつを信用するのか? ココロ? 敵では無いと言い切れるのか?」

「それは断言できますよ。コウは私と協力してくれた。そして『DE』の新しいメンバーですよ。これで人出が増えて助かりますね」

「勝手に決めるな。コウといったか? お前は本当にここで働く気があるのか?」

「はい。俺はここで雇ってください。何でもしますので」

「何でもしますか? ではお前に何が出来る?」


 俺に出来ること……


「鎧化できるからといって役に立つとは限らないぞ」

「彼はかなり出来ますよ。それに一人で『ヌル』を倒しました」


 倒すことは出来た。

 でもそれはあまり思い出したくない。


 俺は『ヌル』と化した彼女を殺すつもりでいたからだ。

 それが俺の初仕事だった。

 嫌な記憶だ。


「それだけの実力はあるのか。理解した」


 ようやく銃を下してくれた。


「『DE』の仕事は激務だぞ。時には命を落とすこともあるだろう。それでもお前は戦うか?」

「戦います。俺には目的があります。そのためになら何だってしますよ」


 これは本心だ。灯さんを助けるという気持ちは変わっていない。


(少しは成長したようだな)


 冷さんは何かを呟く。

 だが聞き取れなかった。


「コウ、お前を正式に『DE』のメンバーとして認める。しっかりと働け。そしてここが君の居場所だ」


 俺の居場所?


「何をボケっとしている?」

「すいません。居場所なんて、もらえると思ってもいませんでしたから」

「ここは君の家だ。まぁ規則はあるがそれは後で教える。だから……」

「やったー。残業から解放だぁ」

「「……」」


 違う喜びが聞えた気がするが聞かなかったことにする。


 最後に彼女は何か言おうとしていた。

 彼女もきっと良い人間なのだろう。

 それをあえて厳しさで隠しているつもりのようだ。


 でもすぐに見抜けてしまった。


「すいません。とりあえず……」

「いきなり何だ?」

「手錠を外してもらえませんか?」

「あ、すまん。忘れていた」


 この人はしっかりしてそうで抜けているな。

 ふと誰かに似ている気がした。


 だが冷さんは思ってもいない行動に出た。

 銃を再び構える。

 そして鎖を撃つ。


 ちょうど四発打ち、すべて命中させた。

 この人は抜けているというより過激すぎやしないか?

 さすがのココロも唖然としていた。


 俺に居場所が出来た。

 施設にいた時にはとても考えらないことだ。


 そしてここは俺の家。

 ここから俺の新生活が始まった。

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ヘイト・ヒーローズ 玉名市ユウカ @mingosu

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