第449話 ジュピリアス散策

自分とテレーザは久しぶりにジュピリアスの街を散策していた。


まあ、毎日の様に街中には出ていたけど、材料の買い出しや広場の露店街など決まった場所にしか行かなかったし、あまり風景を眺めたりはしないから、ふたりでのんびりと歩くのは久しぶりだった。


「あっちのカフェに行ってみようか」


自分は防衛戦中でもやっているカフェに入ろうとテレーザに提案する。


防衛戦中になってからは物資の不足もあり、カフェの様な娯楽はだいぶ閉店した印象だなと思う。


とは言っても、やはり娯楽はどんな時でも人類には必要なので、カフェは無くならないし、自分達が行こうとしているカフェも人気店なのか、行列が出来ていた。


「うん。こういうカフェって行くのは久しぶりだね〜 レイが土地を買う時に来て依頼かな?」


「そうだね。この街にあるカフェがどんな感じなのか調べに来たんだよね」


やっぱりお店を開くなら住人の趣向なども理解してないと、いくらスキル効果で美味いものが作れても食べてくれなければ意味が無いからね。


この行列が出来ているカフェに行くのは初めてだったので、ちょっと楽しみにしながら行列に並ぶ。


「この世界のカフェって変わったのが多かったよね」


テレーザはちょっと苦笑いしながら、当時一緒に周ったカフェなどを思い出す。


「確かに元の世界には無いパターンばかりだったからね……」


元の世界のカフェが昭和にありそうな昔ながらのスタイルならば、過去であるはずのこの世界は平成の様な様々な形態をしたお店が乱立していた。


カフェはまだマシだが、この世界はそれ以外にも様々なものが元の世界よりは遥かに発達した文明があるのに、何故元の世界では文明があれほど退化したのだろうか謎である。


それに、聖教会はやっぱり存在すら感じられず、【魔王】や【聖人】もいない。


自分が元の世界で調べた時は、千年以上前から聖教会はあり、例の魔導に関する日記みたいな本には【魔王】と【魔導王】は戦ったとすらあったのに……【魔導王】はいるけど、【魔王】はいない。


いろいろ調べた結果、ここが過去だと結論づけたけど……もし、ちょっと違う過去に来てしまっていたら?と考えると不安になってしまう。


それにテレーザには言ってないが、自分達が存在するという事は、それだけで未来が変わってしまうのではないか?とか、自分達が存在する未来には、もう一人の自分達が増えるのか?という疑問もどうなるか分からず不安であった。


「レイ、そろそろ入れるわよ」


「あ、そうだね」


考え事をしていたら、あっという間に自分達の入店する番になっていた。


「レイ」


「ん?」


「レイがいろいろ考えて不安になるのは分かるけど、数百年後がどうなるかを今から考えていたら保たないわよ」


「よく考えている事がわかったね」


「ずっと一緒に居るんだから分かるわよ」


「そっか」


「そうよ。それに今はこの時間を楽しみましょ」


「うん、そうだね」


やっぱり、こういう時にテレーザが一緒にいてくれて有り難いなと思いながら、自分達はカフェに入って行った。

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