第436話 シンディ・ハーバル

玲奈と別れてから数十分後……



さっきまではエリや貴志の件が衝撃過ぎて感覚が麻痺していたけど、玲奈と話をしたら徐々に冷静になってきたら、逆に怒りが込み上げてきた。


エリや貴志は覚醒者として、いつかはモンスターにやられるかもしれないという覚悟をもってダンジョンに挑んでいたのに、エリやられたのが剣による傷で、それをやったのが貴志?


貴志がそんな事を絶対にするはずないし、覚醒者の中にユリを刺し、貴志に濡れ衣をきせたやつがいると思うと、黒い感情が出てきそうだ。


本当なら玲奈みたいに犯人を探して血祭りにあげたいところだが、もしエリや貴志に危害を加えた者がいとしたら、確実に覚醒者の中でも上位の覚醒者だろう。たとえ自分が覚醒しているとしてるとしても、そんな強さの覚醒者と戦えば瞬殺されるだろう。


力も能力もないのが悔しい……そして玲奈に力を返すとまで言わせてしまった自分自身に怒りを感じていた。


「やあ、妹との話し合いは終わったかな?」


「あ、師匠……」


さっきは玲奈との話があったから、師匠とは途中で話を終わらせ、続きはまた今度に話そうって事になっていたけど、師匠は玲奈との話が終わるまでビルの近くで待っていてくれたみたいだな。


「さっきは覚醒者っぽい力が目覚めたとは言ったけど、あまり強くはないみたいだから私の元で修行をするかを聞きに来たんだけど、どうする?」


「えっと……師匠には悪いんですが、もうこの年で覚醒者の新人として活動するのは違うなって思ってるんで、すいませんが……」


師匠は自分が子供の時に起きた事故から、常に気にかけてくれた優しいお姉さんみたいな存在だった。


「そっか、まあ、それも深夜の人生だからね。自由にやったら良いよ」


そして師匠は優しい笑顔で自分の肩を叩いてきた。


「ありがとうございます」


「おっと、忘れるところだった……」


師匠は思い出したかの様に空間を湾曲させ、異次元収納という魔導術に手を突っ込んだ。


「う〜ん、どこにやったかな?」


師匠の手だけが空間に消えている不思議な光景を見せられながら、師匠は何かを探していた。


この異次元収納は猫型なんちゃらの某ポケットと同じなのか、空間内を整理していないとすぐに欲しいものを取り出せないみたいなのだ。


「あっ! これよ、これ! ホラッ、プレゼントするよ」


師匠は目的のものがみつかったのか、赤い宝石がついた高そうなネックレスを無造作に投げてきたので、自分はそれを両手でなんとかキャッチする。


「ネックレス?」


「それは魔導具ってやつでね。魔導師にしか使えないけど、魔導師ならば役に立つアクセサリーよ。それを常に付けてるといいわ」


「常にですか?」


自分は元々、アクセサリーをつけたことが無いんだけど……師匠が常につけろって事は、なにかしらの理由があるのだろう。


「そう、風呂の時も寝ている時も……たとえ殺すって脅されても外しちゃダメよ」


脅されても……


自分の考えていた以上に凄いものなのかな?


「深夜くんは覚醒者と私達魔導を使う者の違いって何だと思う? 覚醒者といろいろ似ているでしょ?」


「確かに……スキルがあったり、ステータスがあったりと似ている部分は多いですね……」


だけど、多少の違いは特殊クラスの覚醒者と言ってしまえば当てはまってしまうくらいの違いでしかない。


「うん、でも似ているけど全くの別物でなんだよね。私達は……」

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