第435話 玲奈の決意

【麻藤深夜 視点】



「お兄様、私はエリと貴志さんが何故こんな事になったのかを調べようと思っています」


玲奈が真剣な表情で自分に決意表明する様に話してきた。


自分もエリと貴志が何故こんな事になったのかを知りたいし、覚醒者が原因なら復讐したいと思うが自分には復讐するだけの力はない。


ならばエリが目覚める為にはどうすれば良いかを考えた方が良いのだろうか?


「……が、お兄様が直接やりたいと思っているのならば、力をお返ししたいと思っています」


自分の気持ちを読んだかの様に玲奈はとんでもない提案をしてくる。


……力を返す。


「玲奈、その言葉の意味を理解してるのか?」


「はい、分かっています」


「なら、俺が受け取るはず無いのも分かるだろ?」


「お兄様は少し誤解しています」


「誤解?」


「エリの件で、偶然にも最悪の事態にならない方法が分かったのです」


「……玲奈が嘘をつかないのは分かっているけど、もしもの事があったらと思うと怖いから、俺は返してほしくない」


「分かりました。それでは私が謎は必ず解いてお兄様に報告しますね」


「ああ、だけど無理はするなよ? これで玲奈になにかあれば俺は……」


「はい、大丈夫です。私は用心深いですから……それはそうと、お兄様も覚醒者になってますよね?」


「不本意だけどな……だけど、師匠の話では普通の覚醒者とはちょっと違うらしい」


こんな理由で覚醒者みたいにはなりたくなかったな。


「私達はお兄様が覚醒者になられるのをずっと望んでいました……お兄様が覚醒者として活動すれば……」


玲奈の言いたいことは凄く分かるが……


「悪いけど、俺はもう覚醒者として活動するつもりは無いんだ、今まで通りに普通に働いて生活していくつもりだ」


もう年齢的にも、今更覚醒者として活動するほどの気力は無かった。


それに……


「俺には覚醒者ではないからか、クラスが無くて、代わりにジョブホッパーっていう、意味の分からないスキルがあるんだよな」


「ジョブホッパー? 転職を繰り返す人を指す言葉ですよね?」


「ああ、今の俺の生き方を表したような言葉ではあるけど、スキルとしては謎だよな」

ジョブホッパーって職種でもないし、能力でもないからな……


「覚醒者の特殊なクラスには、固有スキルというものがあったりしますが、何か他にスキルはありますか?」


「えっと……【??転生】、【??の使徒】、【????の弟子】【ジョブホッパー】かな……」


?が多すぎて中身がさっぱり分からないスキルばかりなんだよな。


「たまに?のついたスキルを持っている覚醒者はいますね。ある条件を満たすと開放されたりします。良ければ一緒に条件を探してみますか?」


「いや、やっぱり俺は今まで通りに生きようと思うから」


「そうですか……分かりました。でも、気が変わったらすぐに言ってくださいね」


「ああ」


この気持ちは変わらないだろうと思いながら玲奈とは別れた。




「玲奈が無茶なことをしなければ良いけどな……」


玲奈は普段冷静に見えてたまに思い詰めた為に暴走する事があるからな。


貴志の件やエリを攻撃したやつの正体とかを調べるのは容易ではないだろうな。


これが街中の出来事なら証拠や目撃者などがどこかにあるかもしれないが、ダンジョン内は完全に閉鎖された空間の上、入れるのは覚醒者のみだから、今以上の情報が出てくる可能性は低いだろう。


「そうだ……貴志の家族に会いに行かないとな…… 」


昔から俺に何かあったら家族を頼むって言われていたからな。


俺は数年ぶりに親友の家に向かうことにした。

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