第432話 転換
【麻藤深夜 視点】
「はぁ……今日もしんどいな……」
「おらっ! もっとキビキビ動かないと今日の予定している工程が終わらねえっだろ!」
「は、はい!」
連日の長時間残業により疲れたなと思っていたら、上司から速攻怒られてしまった。
日々仕事に追われて、仕事以外に考える余裕が最近無いな……。
そう言えば、エリや貴志がオリジンゲートの攻略を始めてかなりの日数が経過してるけど、大丈夫なんだろうか?
まあ、世界でもトップクラスの強さを持つ二人だから大丈夫だとは思うけど……
【……の帰還により身体能力が……ます】
ん?
「誰か何か言いました?」
自分は話しかけられたのかと思い、現場を見渡してみるが、みんか黙々と作業に集中しているので、話しかけてきた感じの人はいなかった。
おかしいな……。
話の内容は聞き取りづらくて分からなかったけど、確かに耳元で囁かれている位の感じで声がしたんだけどな……もしかして、疲れによる幻聴か?
「深夜!! 時間が押してるって言ってるだろ! 早くチェックしにいけ!」
「すいません!」
やばっ、連続して怒られてしまった。
これは無心になる程に作業に集中しなくては……
もう怒られては駄目だという危機意識により作業に集中し始めたのだけど、そこで違和感を感じ始めた。
あれ?
さっきまで身体がしんどかったのが嘘のように軽いぞ?
しかも、霧が晴れたかのように思考がクリアになっている気がした。
何故だ?
あっ……そんな事を考えていたら、また怒られるな……集中、集中。
自分は作業に集中し、テキパキと仕事をこなしていく。
そう言えば、明日にはアレの工程があるから今の内に準備を……
あと、あれもやっておこう。
あれ?
時間が余ったな……よし、アレもやっておこう。
ついでに整理整頓も……
★
「お疲れ様、深夜くん。今日は午後から凄い頑張っていたね! 深夜くんの頑張りのおかげで今日の作業工程が終わったよ!」
仕事に集中していたら、あっという間に就業時間がきたのだけど、いつもは怒ってばかりの上司が凄く笑顔でちょっと気持ち悪かった。
「ありがとうございます?」
「いやぁ、まさかこの現場で定時に帰れる日が来るとは……」
まあ、全ての作業員が帰れるわけではないけど、自分と上司が管轄している範囲は今日出来る事が無くなったので、初めての定時退社になった。
普段なら3時間の残業は当たり前だから、定時で帰れるのが嬉しいのだろう。
結婚している上司なら、定時に帰れるのは嬉しいだろうが、趣味は無く、結婚もしていない自分からしたら、早く帰れても何をすれば良いのか分からず、戸惑うばかりだと思った。
あれ?
何気にスマホを見てみると、珍しく玲奈から着信があった。
何事だ?
玲奈からの連絡は基本的にメールなんだけど……無性に不安になってきた。
「深夜くん、ちょっと飲みに行こうか」
「えっ……」
自分は早く玲奈からの着信に折り返したいと思っていたのに、そんな時に限って上司から飲みに誘われてしまった。
「もしかして行きたくないのかい?」
「だ、大丈夫です! 楽しみです!」
本音を言えば……上司との飲みになど絶対に行きたくないが、断るわけにはいかないからな、仕方なく笑顔で快諾する。
「そうか、そうか。それじゃあ、日本酒が美味しそうなお店を探しておいてくれ」
「わかりました。すぐに探します」
ふむ……
日本酒が美味しくて、席が時間制で1時間半位で退席しなくてはいけないようなお店を探すか……
★
「お疲れ様でした!」
「ああ、深夜くんも明日は今日みたいに頼むよ」
「はい! 頑張ります!」
はぁ、やっと上司から開放されたな。
「さてと、帰るか……」
ピリリリッ……
あ、玲奈から着信だ。
「もしもし」
「あ、お兄様。やっと繋がったわ」
普段から淡々と話す玲奈だが、何となく今日の玲奈の言葉に元気が無いな……それに何度も連絡をくれたのかな?
悪い事をしたな……
「連絡出来なくてごめんな」
「私は良いのだけど……お兄様のその感じだとやっぱりニュースとかは見ていないみたいですね」
「ニュース?」
「ええ……お兄様ならばニュースを見たらすぐにでも私に聞いてくると思いますから」
「?」
何の事だ?
自分がニュースを見て玲奈に聞きたくなる内容……あ、何となく嫌な予感がする。
いや、これはもう確定か。
自分の様な普通のサラリーマンが、ニュースになるような内容で自分と玲奈に関連している事なんて、現在オリジンゲートに突入中のエリに何かがあったしかない。
しかも、悪いニュースだ……
「大丈夫、お兄様?」
「あ、ああ。大丈夫だよ。そのニュース内容を教えてくれ」
「……結果だけど先に言うけど、意思を強く持って下さいね」
「ああ……」
あの気軽に毒を吐く玲奈が、ここまで気にするなんて……最悪な展開かもしれないな。
「オリジンゲートにて、突入していた覚醒者から……エリが殺されたと報告がありました」
「……」
やっぱり最悪な展開だ……。
自分の中で、何故かオリジンゲートだとしてもエリと貴志がいれば何とかなるだろうと、どこか楽観視していたところがあったんだよな。
「そうなのか……それで貴志は?」
「それが……エリは貴志さんにより殺されたと帰還した覚醒者が……」
「は?」
貴志がエリを?
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