第429話 オリジンゲート攻略 ③

【河本貴志 視点】


「ふぅ。やっと7階層クリアか……」


オリジンゲートに突入してから今日で10日が経過していた。


普通のアビスゲートならば、高難易度でも1週間もあれば攻略出来るんだが……流石はオリジンってところか?


まあ、食料などは1ヶ月分はあるから、まだ食料に関しては問題は無いが、問題は人的な消耗だな。


俺を含めたマスターランキングはみんな無傷だが、それ以外のメンバーは3割が死亡。4割がどこかしら怪我をしている状況だ。

無傷なのは支援部隊と1割の戦闘部隊だけだ。


聖女、コーデリアさんに凄い回復能力や支援能力があると言っても所詮は一人だけ、全てのメンバーを回復させる事は出来ず、コーデリアさん以外にも回復能力や支援能力を持つ覚醒者もいるが、骨折や重度な怪我を治せる者はおらず、切り傷適度が精々なので、持っきた治療薬の方がマシな位だった。


「大丈夫か、コーデリアさん。だいぶ辛そうだぞ」


コーデリアさんは限界まで治療を行っていたので、グッタリしていた。


「は、はい。ありがとうございます」

「重傷者以外は治療薬に切り替えたほうが良いんじゃないか?」


覚醒者は自己治癒能力も普通より高いので、痛みさえ我慢すれば重傷以外なら戦えるレベルには回復出来るはずだ。


「ですが……私はこれくらいしか出来ませんから……」

「そうか……なら、これでも飲んどけよ」


俺は鞄より小さな瓶をコーデリアさんに渡す。


「えっ……これは!? もしかして、ポーションですか?」

「おっ、流石は聖女様だな。最近開発されたばかりのポーションを知っているとはな」


実は俺の親父は覚醒者支援アイテムは儲かると考え、覚醒者用アイテム開発部に力を注いでいて、俺もアビスゲート内で手に入れた貴重な素材などを提供していて、3ヶ月前に完全したばかりだった。


「これって、買おうとしたら1本10億円以上する高級アイテムですよね!? こんなの貰えませんよ!」

「まあ、普通に買ったら13億円位だけど、作ってるのは俺の親の会社だから、気にしなくて良いぜ」


俺の親の企業程じゃないが、コーデリアさんのクラウス家もかなりの大企業だから娘の命の為なら13億位は出すんじゃないのか?


「じゅ……13億……そ、そんな高額なもの、こ、怖くて使えませんよ……それに私には返せるものは無いですよ?」


コーデリアさんは本当に1回の使用で10億超えの高級アイテムだと確認出来た途端、表情は青ざめ、手も少し震えているな……。


「いや、返さなくて良いから気にしなくていい。多分だが、次の階層が終わった位にランキング上位以外と支援メンバー以外は撤退する筈だ」


「撤退ですか……」

「ああ、この階層ですらこの損害だからな、次の階層はこれ以上酷いことになる筈だ。そしたら無駄死にする位なら撤退したほうが良いだろうな。そうしたら回復の要であるコーデリアさんは万全の状態でいてもらわないと困るからな。そのアイテムは俺がオリジンゲートを攻略する為の投資みたいなものだ。だから気にせず使ってくれ」


「……分かりました。ありがとうございます」


コーデリアさんは戸惑いながらもポーションを受け取ってくれた。


本当はもっとコーデリアさんにポーションを渡しておきたいが、この様子だと無理そうだな。


しかし、俺の中のコーデリアさんに対する印象は大分良くなった。


「takaさんが何かあれば必ず治療しますね」

「あ、そう言えば、言い忘れたが……俺にはコーデリアさんの不要だ……というより、俺には回復能力を使わないでくれ」

「えっ? それは何故?」


コーデリアさんはキョトンとした表情になる。


まあ、理由が分からなければそうなるわな。


うーむ。


あまり俺の能力を知られたくないが、仕方ないな。


「俺のクラスは?」

「え、魔王ですよね?」

「そう、魔王に聖女の聖属性の回復能力を使ったらダメージを受けるだろ?」

「そんなバカな……私は聖女ですが、誰でも癒やす事ができます。例え、それがモンスターだろうとです。だからtakaさんも治せます」

「ふっ、その辺の雑魚モンスターと魔王の俺じゃ、格が違うんだよ。だから、俺に回復能力は不要だ。俺に恩を感じるなら、仮に瀕死だとしても絶対に使うなよ?」


「……はい、分かりました」


コーデリアさんは納得していない様だが、俺が強く言ったことで、渋々納得した感じだった。

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