第426話 オリジンゲート

アビスゲートが出現してから既に20年が経過していた……。


アビスゲートが出現時は、誰もが世界の終わりだと嘆き、自殺者や財産を使い果たしたり、テロなど、他にも様々な事件が起きていたが、人は20年も経つと近くにある危険なアビスゲートも、自分たちには危害がないと錯覚すると、映画の世界が近くにあるかの様に危機感は無くなっていた。


そして、自分はというと……


最初に就職した大手建設会社を3年で退職してから、様々な職種を転々としながら生活していた。


それにしても、自分も今年でもう38歳か……立派なおじさんだな。


久しぶりのカフェで、座りながらぼんやりと若者達が生き生きとしながら歩いている姿を窓から見ていいたら、ふと20年はあっという間に過ぎたなと思ってしまう。


20年……。


自分にとっては地獄の様な時間だった。


今までの就職した会社も、最初に就職した会社と同じで、世界の救世主として世界的な有名人になっていた妹達の兄もまた、違う意味で有名人になってしまい、変な期待を勝手にしておいて勝手に失望するという、自分にはどうする事もできない他人の評価に馴染めず、様々な仕事を経験したからか、仕事は割とすんなりと馴染めたのに、上司からの評価はかなり悪いというのが続き、次第に人とコミュニケーションを取るのが苦手になり、人見知りが酷くなっていた。


終いには、今働いている会社では、面接担当をした人の何気ない一言で、自分のあだ名はジョブホッパーになってしまい、何だかジョブホッパーと呼ばれると馬鹿にされている気になっていた。


今の職場もどれくらい耐えられるかな……仕事は割と出来ている気はするのだけど、人間関係が耐えられないんだよな……


しかし、決して妹達を恨んでいるわけでは無い。


むしろ……


「よう! 久しぶりだな、深夜」


おっ、やっと待ち合わせのヤツが来たな。


「ああ、本当に久しぶりだな……7年振りか?」


そう、基本的に休みの日には人と接したくない為、外出はほとんどしない人見知りの自分が、こうして気軽に話せる相手……魔王・貴志である。


「それくらいだな。今はアメリカの企業に所属しているからな、なかなか日本に帰って来れないんだよ」

「はぁ、貴志は凄いよな……今じゃあマスターランキング6位の魔王様だからな」


国連が公表している覚醒者の貢献度や強さなど、様々な角度からの評価を数値化したのがマスターランキングで、貴志は3年前から6位に留まり続けていた。


「こんなところで魔王は止めろよ、恥ずかしいだろう……」

「はははっ、仕方ないだろ? 貴志のクラスが魔王なんだからさ。昔なら喜んでいただろうに」


覚醒者は、能力者として肉体が改変されたとき、同時にAシステムの恩恵を最大限に活かせるように、その覚醒者に最適なクラスというものを授かるのだ。


そして、貴志の場合は最初から魔王というクラスだった訳ではなく、闇戦士から始まり、闇騎士、魔王とクラスアップしていったのだ。


「くっ……俺ももう結婚して、二人の子どもがいる父親だぜ? 流石に恥ずかしいよ」

「……それもそうか。もう父親だもんな……それに比べて俺は」

「深夜は相変わらずシンディ師匠の後を都合としているのか?」

「師匠の残した能力を継承出来るだけの力があればな……だけど、俺には役に立たないアレしか無いんだよな」

「そっか。俺は深夜も覚醒者になると信じていたんだけどな」

「俺には覚醒者の才能が無かったのさ。それよりも本当に貴志もオリジンゲートの攻略に行くのか?」

「ああ、今回の攻略は国連も本気だからな。マスターランキングが7人も参加する超大規模作戦だ」

「マスターランキング7人って凄いよな……」


アビスゲートは、モンスターを吐き出すだけではなく、覚醒者のみになるが内部に進入する事が出来て、ゲートマスターと呼ばれるアビスゲートのボスを倒すと、莫大な貴重素材を吐き出したあと、ゲートが閉じるのだ。


そして、アビスゲートが成長しきってしまうと、ゲートが崩壊し内部で育ってモンスターが外部にぶちまけられてしまう、ゲートブレイクが起きる。


ゲートブレイクが起きた地域は、アビスゲートのランクにもよるが、ほとんどが周辺に甚大な被害をもたらしてしまう。


「それだけオリジンゲートはヤバイってことだな」

「そうか……」

「まあ、今回のオリジンゲート攻略が終われば、俺も覚醒者は引退して覚醒者用の武具屋を開くつもりだ」


「おい、死亡フラグは止めろよ! 縁起でもない!!」

「ははっは、俺はアメリカ所属内最強覚醒者の魔王だからな! 縁起なんてクソ食らえだ」


……こいつはバカなのか?

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