第422話 夢想少年 ②
自分はバスの中でグッタリとしていた。
「はぁ、はぁ……吐きそう……」
「お兄様、大丈夫? 顔が真っ青よ?」
マジで脚が崩壊しそうだ……
人って、こんなに簡単に肉体の超えられるのかと思うほど、エリに強制的ダッシュさせられたのだ。
「お兄ちゃんは鍛え方が足りないんだよ! 今日から夕方に一緒に走る?」
「いや、いや、エリと比べたら学校の陸上部も鍛え方が足りなくなっちゃうからね!?」
「そうかな? 私はまだ全然全力を出してないよ?」
「……」
エリは非公式ながら、高校1年生なのに様々な陸上記録を塗り替えている正真正銘の身体能力モンスターである。
そんなモンスターと何の運動もしていない自分を比べないで欲しいと思う。
そしてエリと一緒に鍛えたら最後、自分の両脚は1日にしてぶっ壊れるだろう。
……よし、明日からは確実に目覚しで起きるようにしよう。
★
「お兄様、それでは放課後に」
「お兄ちゃん、またね!」
「ああ、放課後にな……」
自分と妹達とは高校の校門で別れた。
自分達の通う高校は、様々な専門学科がある関東圏最大級の広さがある学校で、自分は普通の一般学科の3年生に対して、玲奈とエリは特選教育学科という、一人の生徒に対して複数の専門教師が教えるという超エリートのみが入れるスペシャル学科の1年生なので、校門は一緒でも校舎は全く違う場所に建っていた。
玲奈は高校1年生にして、既に様々な世紀の発見を発表している世界屈指の頭脳を持つスーパー女子高生で、エリはどんな競技でもプロ並の成績を残せる世界最高峰の肉体を持つスーパー女子高生なのだ。
二人はモデル並みの容姿もあって、小学生の時からテレビでも取り上げられる超有名人でもあった。
『……あいつが夢想少年か』
『そうそう。あのスーパーシスターズの兄なのに、残念なスペックの夢想少年だよ』
小声ではあるが微かに自分のことを憐れむ会話が聞こえてきた。
まあ、慣れているから良いけど……高校生にもなって少年は無いだろうと思う。
しかし、これも自業自得だと思えば仕方ないのかな。
「ようっ! 深夜!」
ため息をつきながら教室に向かっていたら、肩を叩きながら声をかけてきた同級生を見る。
「おはよう、貴志」
「相変わらず顔色が悪いな! また黒魔術の研究か?」
「クッ、クッ、クッ……流石は我が同志。同志には隠し事が出来ないな……」
「分かるさ、俺も暗黒魔闘技の修練をしていたからな」
こいつは、河本貴志……小学校から一緒の幼馴染で、とある事件で仲良くなった中二病仲間である。
自分と貴志は共に暗黒魔闘術という中二病技を開発しては見せ合いをしていた。
主に自分は魔術担当で、貴志は闘術担当である。
まあ、自分の場合は完全な中二病でも無いが……
「そう言えば、今ってシンディ様が来てるんだよな?」
「ああ、一昨日からシンディ師匠はふらっと来てるね」
「じゃあ、今日の夕方にシンディ様に挨拶しに行っても良いか?」
「多分、大丈夫なんじゃないかな。うちに来るなり相変わらず、ずっと地下室に籠ってるしね」
師匠はいつも地下室だからな……
「そっか、流石は師匠だな。それじゃあ、最近作ったカオスブレード・マークⅥを見てもらおうかな〜」
貴志は剣を振り回す仕草をしながら、ニカッと笑う。
……マークⅥを作ったのか。
「今回のはいくら使ったんだよ?」
「う〜ん、約6億円かな」
「マジかよ……」
この貴志は、実は大財閥の息子で超お金持ちなのだ。
それでお小遣いの範囲で中二病武器のカオスブレードというものを作っているのだが……6億って。
「いやぁ、カオスブレードの材料であるダークマターって素材自体も高いけど、加工するのが大変らしくて、金がかかるんだよな」
「……」
そりゃあ、ダークマターを使えばかかるだろうな。
ダークマターとは、3年前に発見された新物質で、超軽量なのに超硬度で、光や音、様々なものを遮断するという不思議な性質を持っていた。
そこで各国はこぞって研究のため、ダークマターを唯一生産出来る発見者から超高額で買っているのだが、貴志には発見者とのコネがあるため、武器開発にしか使わないという謎条件の元、相場の100分の1で買っているのだ。
「しかし、ダークマターって凄えよな。何か素人の俺でもカオスブレードを使って訓練してると何か強くなった感じになれるからな!」
「き、気のせいじゃないか?」
「そうでも無いぜ? 暗黒魔闘技の漆黒二刀流・一之型・一閃なんだけど、最初は全くイメージ通りに使えなかったのに、カオスブレードを使っているうちに、段々と形になってきたんだぜ」
漆黒二刀流・一之型・一閃は、音を斬るというコンセプトの中二病技で、暗黒魔闘技の基礎にして奥義となっているんだけど……
形になってきた?
貴志の身体能力は自分よりは高いが、エリみたいなモンスタースペックではない筈なんだけど……いや、本気にしたらダメだな。
「それは凄いな。今度見せてよ」
「おう、完成したら見せるぜ!」
まあ、実際には中二病技が完成する事は無いだろうが、いろいろ考えたり、試したりするのは楽しいなと思う。
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