夢想少年編

第421話 夢想少年

「深夜お兄ちゃん! 早く起きてよ!」


自分は急に寒くなった事により、一気に目が覚めた。


「……エリ!? いきなり布団を剥がすなんて、酷いじゃないか!」

「それは深夜お兄ちゃんがいくら起こしても起きないからじゃない!」


真冬の寒い中、自分の布団を無慈悲に引っぺがしたのは、プラチナの様にキラキラと輝くサラサラの長い髪に青い宝石の様な瞳をした絶世の美少女……のエリだ。


「なによ? そんなに私に起こされたくなかったの?」

「いや……そういう訳じゃないんだけど……」


エリの容姿は、平凡な容姿のThe日本人である自分とは全く異なるが、一応は血の繋がった兄妹である。


周りの人達は、エリの女神の様な容姿に騙されているが、エリの本性はかなりガサツであり、何でも力で解決しようとしたりするのだ。


そのフォローのため、自分がどれだけ苦労しているか……


「……やっぱり深夜お兄ちゃんは、私にじゃなく、玲奈お姉ちゃんに起こしてもらいたいんだ……」


!?


自分はエリのその発言を聞き、一瞬だが身体が硬直した。


「ちょ、ちょっとまて!? 何でそうなるんだよ!?」


ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!


「あれ〜? 深夜お兄様は、実は私に起こして欲しかったのですか? それならもっと早く言って貰えれば……」

「れ、玲奈……」


自分は声のする方を見ると、にっこりと微笑む清楚で可憐な艶のある長い黒髪で、大和撫子の様な美少女がエリの後ろに立っていた……のだが、自分にはその美少女が死神に見えて仕方ない程に恐ろしかった。


「あっ、玲奈お姉ちゃん! やっと深夜お兄ちゃんが起きたよ!」

「お疲れ様、エリ。明日からは私が深夜お兄様を起こしに来るわね」

「……仕方ないよね」

「ちょ、ちょっと待って玲奈。お前に起こされたら死んじゃうよ!?」


玲奈は見た目だけで言えば、上品な感じの大和撫子風な美少女だけど、実は超天才的な頭脳を持って生まれた弊害か分からないけど、一般人には理解の出来ない独自の倫理感を持つヤバイ子なのだ。


玲奈のヤバイエピソードはいくつもあるが……例えば、自分が足を骨折してしまった時なんかは、玲奈曰く自己再生なんとかいう怪しい薬を食事にコッソリと混ぜられ、3日間とんでもない激痛におそわれたりした……まあ、その薬おかげで全治2ヶ月と言われた骨折が、たったの3日間で治ったのは凄いが、あの激痛は未だに忘れられないトラウマである。


玲奈にしてみたら、2ヶ月も不自由な生活をするくらいなら3日の骨折の数倍はある激痛で終わらせた方が効率的だと考えているのだ。


そんな玲奈に朝起こされたら、何をされるか分かったもんじゃない……。


「深夜お兄様。私が最愛のお兄様を死なせる訳ないじゃないですか。深夜お兄様にそんな風に思われるなんて……私、悲しいです。ううぅ……」


玲奈はそんな事を言いながら、嘘泣きを始める。


「あ〜! 深夜お兄ちゃんがまた玲奈お姉ちゃんを泣かした!」

「いや、あれは嘘泣きだし……」


というか玲奈、ちょっと笑ってるだろ。


「玲奈お姉ちゃんが嘘泣きなんかする訳無いじゃん!」

「……ありがとう、エリ。うう……この家じゃあ、エリだけが味方ね……」

「いや……あれを信じるなよ……」


純情そうな見た目の策士でヤバイ性格的の玲奈とは対象的に、エリはヤンチャな見た目だけど、内面はあんなあからさまな嘘泣きを本気で信じてしまう位のもの凄くピュアな美少女だったりする。


ときどき、玲奈とエリの性格が逆転していたら、どうなっていただろうと思う。


片方は女神の様な美少女……もう片方は死神の様な……いや、考えてはいけないな。


「それはそうと、深夜お兄様……そろそろ時間は大丈夫ですか?」

「え?」


自分は時計を見ると……え?


「って、ほんとに遅刻しちゃう!? や、ヤバイ!」


これはバス停まで全速力で走らないと間に合わなくなる時間じゃないか!


「良かったら、試作の時空間短距離移動装置を使いますか? それなら3秒で高校の校門前に着きますよ」

「え、なにその未来装置は……超怖い」


超天才な玲奈なら出来そうで怖いが……


「成功率は?」


玲奈が試作って言う時は、確実にヤバイやつだ。


「0.001%もありますよ」

「いや、それ確実に失敗するやつじゃん!」

「ふふ、深夜お兄様には分からないかも知れないですが、0.001%もあれば凄い事なんですよ? それじゃあエリ。お兄様の事は任せたわね」


玲奈はそう言い、早めに家を出ようとする。

玲奈は天才的な頭脳を持っている代わりに運動神経や体力が壊滅的なのだ。


「うん! お兄ちゃんは絶対に間に合わせるから安心して!」


そして、エリは玲奈の逆で、勉強は出来ないが身体能力は、複数競技のオリンピック選手候補に選ばれるほどの超人的な運動神経を持っているのだ。


だから、玲奈は自分とエリを置いて先に学校へ向かった。


ちなみに……自分は、全てが平均的な……


「ほら、お兄ちゃん! 早く着替えて!」

「ちょ、自分で着替えられるから! って、え!?」


どんな手品か分からないが、あっという間にパジャマは脱がされ、一瞬にして高校の制服を着せられていた。


「ほら、お兄ちゃん、全力でバス停に向かうよ…!」

「あっ、ちょ、ぎゃああああ〜〜」


自分はエリという超人に、遅刻しないで間に合う様に強制的に走らされたのだった……

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