転移編

第356話 謎の草原

 ユサ、ユサ……


「レイくん! レイくん!」


 あれ……寝ているのにセシリアじゃなくてテレーザさんの声が聞こえるぞ?


 まあ、どちらにしても起きる時間なのかな?


 自分は目を開けると涙目のテレーザさんが至近距離にいた……


「えっ? テレーザさん近い!?」


 何が起きているんだ?


 何でこんな状況になっているのかさっぱり分からなかった。


「あっ、やっとレイくんが目を覚ましてくれました!」


 びっくりして自分は上体を起こすと、一面草原の中に涙目のテレーザさんと自分だけがいた……


「あれ? ここはどこ? 何でテレーザさんと一緒にいるの?」


「レイくんは覚えてないんですか? 森でレイくん達が何かをしていた時に背後から私とレイくんは黒い球に飲み込まれたんですよ」


「ああっ!? そうだった!」


 自分はジェーンさんに【吸魔の呪面】をつける為に森へ行っていたんだった。


 そして、最後は【吸魔の呪面】が透明になったので【魔導具】はしっかりと発動したのは確認したあとの事は……覚えてないな。


「それにしてもここはどこだろう? 見た目からして【スカウトフォート】周辺の森から飛ばされて草原に?」


 テレーザさんは黒い球に飲み込まれたって言っていたけど、森から草原に吹き飛ばされたのかな?


 いや、そんな距離を吹き飛ばされれば今頃は死んでるか……


「私も分かりませんが……【スカウトフォート】周辺ではないのは分かります、信じたくは無いですが……」


「えっ? 【スカウトフォート】周辺じゃないってなんで?」


 確かにこんなに広大な草原は見たこと無いけど、【スカウトフォート】じゃないって何で言えるんだろう?


「それはあれです」


 テレーザさんは空に向けて指さしているけど、珍しい鳥でもいるのかな……えっ?


「空に巨大な岩が浮いてる?」


「そうです、私も見るのは初めてですが、私が知る限り空に巨大なものが浮いているものは【天空城】しか無いと思います、そうするとここの場所はイーストエンド地方ではなく、ウエストエンド地方です……」


「【天空城】って初めて聞いたんだけど、でもウエストエンド地方なら授業で名前だけはやったけど、そういえばイーストエンド地方の西側にあるとしかやらなかった気がするな……?」


「多分、レイくんみたいな感じが普通だと思いますよ。私も貴族として多少の知識がある位で、ほとんど分かりません……それに【天空城】がなければ私もここがウエストエンド地方だと分かりませんでした、ですが、あれが本当に【天空城】ならかなり厄介ですね」


「厄介? 距離的な意味で?」


 イーストエンド地方だけでもかなり広いと思ったけど、確かウエストエンド地方までは中央区を越えなくてはいけないから、イーストエンド地方の2倍以上の距離を移動しなくてはいけないから厄介って意味かな?


「それもありますが、ウエストエンド地方はイーストエンド地方とほとんど交流が無いので生活スタイルがかなり違うと聞きました。私もウエストエンド地方に来るとは思ってなかったので詳しくは分かりませんが……」


「それは仕方ないね。何とかして【スカウトフォート】へたどり着ける様に頑張ろう」


「そうですね!」


 この世界の地図の縮尺がどれくらいか分からないけど、数ヶ月位で【スカウトフォート】へ移動が出来たら良いな……


「あれ?」


「どうしたの?」


再度、【天空城】を見上げたテレーザさんは、不思議そうに小首を傾げていた。


「あの【天空城】なのですが……先ほどは大半が雲に覆われていたので、分かりませんでしたが、私が知っている【天空城】にしては綺麗すぎる気がして……それに想像していた物よりも数倍は大きい気が……」


「それは【魔法】で綺麗にしているからじゃないの? それにかなりの距離があるから実際の大きさは分かりにくいしね」


あんな巨大な城を空中に浮かべる技術があるのなら、【クリーン】を常時発動とか簡単に出来そうな気がする。


「確か過去の大戦で城が半壊したと聞いた気がしましたが、情報が古かったのかもしれませんね」


 この時、自分とテレーザさんは大きな勘違いをしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る