第344話 織機

 自分とテレーザさんはマギリさんが紹介してくれた織機の販売店に来ていた。


 まさか機織りする為の織機を専門に扱うお店が存在するとは思わずびっくりしてしまった。たぶん、マギリさんに聞かなければ見つけられなかったかもしれない。


 織機の販売店は工業地区の目立たない立地にあり、外観からは小さな工場と言った感じだった。


「本日はお越し頂きありがとうございます、店長のサラスです。マギリ様よりレイ様の織機に関する質問には全て答えるよう、言われておりますから何でも聞いて下さい」


 店長のサラスさんは綺麗なお辞儀と共に自分達を出迎えてくれたのだけど……


「あっ、僕は一般人なんでもっと楽に接してくれると助かります……それに織機の値段と性能とかを知りたいだけですから」


 自分としては普通に販売店に来たみたいな雰囲気で対応してくれると有り難いけど……テレーザさんもいるから難しいのかな?


「分かりました、その様に対応させて頂きます。それでどういった用途で使いたいのですか?」


「ああ、使いたい糸があるので……出来れば絹のような生地を作れたら良いんですが……」


 自分は【ストレージ】から蜘蛛達が作ってくれた巻き糸をサラスさんに渡す。


「拝見させてもらます」


 サラスさんは巻き糸を引っ張ったり透かしたりすると、表情がみるみるうちに驚愕の表情へと変化していった。


「……こ、これは!? し、失礼ですがこの糸は何から作ったものなのですか? このような光沢があり滑らかな糸、更には強度もある糸は初めて見ました」


「あ~、すいません。入手先は秘密なので教えられないんです」


「そうですか……これほどの強度や肌触りの糸ならば高額で取引出来るのですが、それこそ王族への品を作成するのに最適だと思われるので残念です」


「王族用ですか……巻き糸の販売は出来ないですが、布地に加工したものなら販売出来るかもしれないですがまだ未定なので約束は出来ないです……」


 織機を使って神素材が出来るまで大量生産する予定だから、神素材にならなかった普通の布地は販売しても良いかなと思っていた。それも試してからになるので約束は一切出来ないけど。


「おお、その時は是非お願いします」


 サラスさんは布地が手にはいると思ったのが満面の笑みになる。


「それではお薦めの織機を案内させて頂きますが手動の織機と自動の織機がありまして、もちろん自動の織機の方が値段は高い上に【魔石】を消費したりするのでコスト面はあれですが、手間とスピードは各段に早いです」


「やっぱり自動ってあるんですね。一応、両方を見せてもらってもよいですか?」


 前世でも全自動の織機から原始的な手動の織機までいろいろあったけど、この世界にも【魔石】を使ったものがあるんだなと感心した。


「はい、もちろん構いません」


 それから1時間位をかけて、自動と手動の織機を全て見せてもらったのだけど、見る前よりも更にどうするか迷ってしまった。


 来る前は、ちょっと構造を覚えれば自作もいけるかなと思っていたけど、結構繊細なものだったので、どちらかを購入してからバラして自分用に組み直そうかなと考えていた。


 本来なら手動の織機の一択だったけど、大量の巻き糸が蜘蛛達によって手に入るなら、自動の織機は神素材目的じゃなくてもサラスさんのお店に売れそうだから元はすぐに取り返せるかもしれないと考えたのだ。


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